小鳥遊さんには妹がいる。
約束の日まで残り数週間。
私は未だに答えを出せずにいた。
当然である。
そもそもこんな短い期間で出るような答えならば、あそこで時間をもらう必要なんてなかったのだから。
そんなことを考えつつ、私は隣を歩く小鳥遊さんに目を向ける。
「小鳥遊さん」
登校中、私は用事もなく小鳥遊さんの名前を呼んでみた。
すると小鳥遊さんは、笑顔で首を傾げる。
「ん?」
私は、その仕草に若干の動揺が生まれながらも、からかい半分で言う。
「なんでもない」
からかわれた小鳥遊さんは、「そう」と、何事もなかったかのように歩き出した。
あの日よりも前の私なら、小鳥遊さんをからかうようなことは絶対に出来なかったはずなのだけれど。
私たちの距離感は、あの日以降、バグまみれだ。
表目上はいつも通りのはずなのに、所々で近かったり、遠かったり、はたまた近いはずなのに遠く感じたり、本当にわけがわからなくなっている。
それも全て私のせいなのだけれど。
私がもっと早く答えを導き出せたのなら、こんなよくわからない状況にはなっていない。
そんなことを思い悩んでいると、小鳥遊さんが何かを思い出したかのように慌てた様子で、言う。
「そうだ、言い忘れてた。今日、お昼の時間妹のまぁ友達というか、幼馴染にちょっと手伝ってほしいことがあるって言われてたんだ」
「妹さんの……そうなんだ。それで?」
「うん、だからその、大丈夫かなって」
「何が?」
「多分結構長い時間一人にしちゃうから、その間、桜大丈夫かなって」
その言葉を訊いて、私は、肩をガーンと落としてしまう。
私は小鳥遊さんにそこまで信用されていなかったのか、と。
そんな数十分一緒にいられないだけで、心配されてしまうような子供に思われていたのか、と。
そりゃあの日は大変なことになっていたけれど、あの時は小鳥遊さんの無事が確認できていなかったからで──後から聞いた話で、あの時私のメッセージに返信がなかったのは、風邪のせいで寝込んでいたかららしい。
その中で、私に助けを求めるが如くあのメッセージを送ってしまったと、言っていた。
本当に、申し訳ない。
あの時私が、教室を飛び出していなければ、小鳥遊さんが倒れてしまうこともなかったのに。
その反省も踏まえ、私は小鳥遊さんに安心してもらおうと、笑顔を向ける。
「大丈夫!」
その一言で安心してもらえたのかは、甚だ疑問だったけれど、少なからず納得はしてもらえたようだった。
「もしも、何かあったらすぐに連絡してね」
「何かあったらって、流石に心配しすぎだよ、小鳥遊さん。普通に暮らしていてそんな危ないことなんて──あるわけ」
そんな会話をしてから、数時間後、私は学校内の駐輪場で見知らぬ女子生徒に絡まれていた。
見知らぬとは言っても、それは外見だけの話で、素性というか個人の名前自体は私と関係がないとは言えない。
彼女の名前は、小鳥遊アゲハ──小鳥遊さんの妹さんであった。
私と小鳥遊アゲハの出会いは、突発的なものに見えて、よくよく考えれば仕組まれているのがバレバレなものだった。
小鳥遊アゲハが私の目前に現れたのは、小鳥遊さんが教室を出てから数秒後の出来事で、まるでいつ、どのタイミングで小鳥遊さんが教室を後にするのかがわかっていたようだった。
私が一人でお昼ご飯の準備を進めている地、そこそこの足音を鳴らしながら近づいてくる女子生徒がいた。
少し顔を覗きはしたけれど、正直見たことがない生徒だったので(そもそも私が覚えている生徒は小鳥遊さんだけ)当然私は、自分以外の誰かが標的だと思っていた。
けれど、その足音は一目散に私の席へと近づいて、こう言い放った。
「この、泥棒猫!」
その言葉を聞いて、私は正直意味がわからなかった。私は泥棒でも、猫でもなく。虫みたいな存在なのだから。
そんな虫みたいな私に、何故人が話しかけてきているのかが、全くもって理解ができなくて、私は狼狽えながらもなんとか声を絞り出した。
「あ、あの、どな、た、です、か?」
言葉を覚えたての宇宙人のようになってしまった。
宇宙人を見たことはないけれど。
そもそも、最近の私は小鳥遊さん以外の人と会話というものをしていない。
必要最低限の会話さえもしていない日があるくらいなのだから、突然大声で話しかけられたらこうなってしまうのも仕方がない。
本当は、今すぐにでも小鳥遊さんを呼んで助けてもらいたいぐらいだったけれど、今朝大見えを切ってしまった手前、呼ぶにも呼べない状況になってしまっている。
そんなどうしようもない私に、目前の女子生徒は名乗りを上げた。
「わたしは──小鳥遊アゲハ、あなたが盗んだ小鳥遊小鳥の妹よ」
小鳥遊さんの妹──そう名乗った女子生徒は、小鳥遊さんとは対照的なその胸に手を置き、自信ありげに、自慢げに、言い終わると、私のリアクションを待つことなく、腕を掴んできた。
「わたしは、絶対にあなたからお姉ちゃんを取り返す、だから来なさい!」
言って、小鳥遊アゲハは掴んだ私の腕を強引に引っ張っていく。
私は、衝撃のあまり何も出来ずに、ただただ、小鳥遊アゲハの思うままに動くことしか出来なかった。
小鳥遊さんの妹──確かにいるのは知っていたけれど、私が関わることになるとは思いもよらなかった。
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