小鳥遊さんは虫を嫌う

 梅雨も明け段々、と、日差しが強くなり始めた頃、私が自室でくつろいでいると、一匹の虫が窓ガラスに張り付いた。

 その虫の大きさは数センチほどで、潰してしまおうと思えば難なく行えてしまうぐらい。

 そこそこ遅い時間だったので、周辺の明かりは私の部屋の物のみになっていたので、おそらくこの小さな虫は光につられてやってきたのだろう。

 するとその虫は、唯一の光の下へと辿り着こうとしているのか、必死に窓ガラスをよじ登ろうとしている。

 もちろん、窓ガラスは閉まっているのでこの虫が、私の部屋へ足を踏み入れることはできない。

 しかし虫は、そのことを認識しているのかどうかはわからないけれど、必死に懸命に一生懸命に、何度ズリ落ちたとしても再度翅を開き、壁への登山を再開していた。

 その光景は何十回にも及んだが、それでも虫は諦めず、その行為を繰り返していた。

 私はその虫に対してこう思った。

 よくそんな無駄な努力ができるね、と。

 君がどれだけ頑張ったところで、この扉は開かないし、君が何十回繰り返したところで、この光の下には辿り着けない。

 なんでそんなこともわからないんだ。

 自分の力を理解せず、ただ闇雲にしているそれは、努力ではなく、ただの徒労だ。

 それが理解できてるやつは、沢山いるだろうに、少し飛べばマンションが見えてくる。あそこには沢山の力がない虫たちが、たむろっているはずだ。

 そこに行けばいい。

 もしそこが嫌だというのなら、コンビニの光の下にでも向かえばいい、あそこもあそこで、お前と似たようなやつらが沢山いることだろう。

 なんでそんな簡単なことも理解せずに、無駄な努力を続けるんだ。本当に──馬鹿。

 私は、一匹の虫に対してそう思いながら、部屋の電気を消した。

 そして眠りにつく。

 嫌な夢を見た気分だった。

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