第2話 起(2)

お互い示し合わせたわけではないが、帰り道が同じ二人はそのまま肩を並べ帰路を歩いた。


親友、というと大げさだがそれでも友達であると周りに言えるほど仲の良い武と篠原の会話はほどほど盛り上がっていた。


「でさあ、そこで九番が走りこんでヘッドスライディング」


「あれが日本の世界大会出場を決めたようなもんだよな」


「くうぅぅぅ、しびれたぜえぇ」


昨日見たサッカー世界大会予選のロスタイムギリギリ勝ち越しゴールの余熱を二人で分かちあった後、篠原と別れる交差点が武の視界に入った。


「なあ、篠原」


「うん、なに」


交差点の数メートル前、めんどくさそうな話なら後で電話してくれと言ってそそくさと逃げようと思うには少し距離があるなと篠原に感じさせる距離で武は篠原についさっき自分の足を止めさせ、魔法少女キラキラルン☆ルンのリアルタイム視聴を断念させた同級生について篠原に聞いた。


「流川麦(ながれがわむぎ)について知ってること……て言われてもな。あいつ転校生だし」


流川麦、最近石田達のクラスへやってきた転校生。転校生がやってくるなど小学五年生からしたら四年に一度のスポーツ大会と同じくらいの一大ムーブメントで転校してきた当人はクラス中の生徒からパパラッチばりの質問攻めにあうのが通例なのだが流川麦の場合、そうはならなかった。むしろ、腫物のように彼と好んでかかわるものはいなかった。


「うーん、わからん。というよりあいつのことを知ってるやつを知らん。話題に上がったことがそもそもない」


「そう、か」


クラス一のおしゃべりかつクラス一の情報屋である篠原でも流川麦について知っていることは武と対して変わりはなかった。


「あいつと仲のいい奴ってクラスにいなかったか」


「うーん、聞いたことねえな。あいつと仲良くしてる奴なんていねえんじゃねえか。だってみんなあいつのこと避けてるじゃん」


「なんでそうなってるんだよ」


武の言葉に篠原は今までの人受けの良いにやけ顔から一転、真剣な表情で一言。


「なんとなく」


「…………はあ」


篠原の言葉に武は呆れ以外の感情が沸き上がらなかった。


「仕方ねえだろ。本当に、そうなんだから。なんかあいつからは普通じゃない感じがするんだよ」


武の目から逃げるように視線を外した篠原は真っすぐ交差点の方へ止めていた足を進めた。


それを見た武は速足ですぐに篠原の後を追いかけ、隣に並んだ。


「だったらお前が仲良くしてやれよ」


「いやだよ」


武にしては珍しく飾りのない心の底からの言葉だったのだが、篠原は武の方を一瞥することもなくあっさりと切り捨てた。


「俺がハブられるかもしれねえじゃん。あいつのためにそんなリスク負えねえよ」


「………………」


篠原の言葉をひどいと思った武だが、すぐに言い返すことはできなかった。篠原の言った言葉が理解できてしまったからだ。


「それでもクラスメートだろ」


ふり絞るように出した声は交通量の多い交差点の中では簡単にかき消されてしまった。


「それはお前もだろ」


篠原の言葉もまたあっさりと霧散した。


「…………そう、だな」


歩車分離の信号が切り替わるまで二人の間に会話はなく、


「とにかく、流川麦について俺が知ってることは言ったからな。あとで電話してくんなよ。じゃあな」


別れ際、篠原がこれ以上この話題で俺を舞い込むなと武にくぎを刺して二人はそれぞれの帰路へとついた。その後、武は家族全員が寝むりにつくまで魔法少女キラキラルン☆ルンをお預けにされたのだった。

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