計略
「来てくれて ありがと」
君が珍しく そんな殊勝な言葉を言うから
せっかく落ち着かせたはずの心臓が
またドクドクと暴れ出す
僕の気持ちを知っているクセに
僕が断れないことを知っているクセに
こんな夜中にファミレスに呼び出して
いったい何のつもりだよ
「あなたのそーゆーとこが好き」
君が突然そんな事を言うから
飲みかけのコーラが気管に入って
苦しいったらありゃしない
テーブルに置かれたその白い手を
無理やり握りしめてあげようか?
それとも 隣の席に移って
その小うるさい唇を
キスで塞いであげようか?
なんて
くだらない妄想をする事しかできない僕だけど
こんな僕の気持ちなど
君は気づきもしない様子で
どうでもいいような無駄話を
飽きるくらいに話し続けて
ファミレスを出る頃には
真っ暗だった空も白み始めて
家まで送ると言った僕に
「帰りたくないな」
なんて 君が言い出すから
僕はもう
腹が立って
腹が立って
君の腕を乱暴に掴んで
その手の場所に連れ込んだんだ
僕だって男だと
君を想ってる ひとりの男だと
君に思い知らせるために
だのに
振り向いた先
僕に引っ張られて歩く君は
目が合うなり ニッと笑って言ったんだ
「やっと 本気になってくれたね」
ああ まったく
僕はなんて女に惚れたんだろう!
君の掌の上でコロコロと
小気味いいほどに転がされて
思い知らされたのは 僕の方だ
掴んだ腕を強く引き寄せ
君の体を 思いきり抱き締める
何の抵抗もなく
すんなり腕におさまる 君の体
眩しい朝日に思わず目を瞑った僕の唇に
君の唇がそっと触れた
わかってる
僕は君には敵わないんだ
敵わなくても それでいいんだ
君が笑っていてくれるなら
僕は何度でも喜んで
君の計略にまんまとのせられて
君の掌の上で転がり続ける
たまには怒ってしまうこともあるだろうけど
それすらも想定内の君の計略を
僕はこれからも 楽しみ続けるさ
君が幸せでいてくれるなら
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