第 十二話 出立(二)
半開きの重厚な扉が、蹴破られる勢いで開けられた。
装飾品にまみれた小部屋だった。
不必要に飾られた部屋の中、さらに奥の部屋へ続く重厚な二重扉の前で、門番のように机に座っていた若い女の顔があからさまに不機嫌な表情へと変わった。
「何か」
物々しい手甲をつけた女だった。
腰に刀を下げ、髪を短く切り揃えた明らかに武官とわかる若い女が、書類を手に体ごと中へ突っ込んできていた。
「
「ご予約はないようですが」
「昨日、監正に報告した案件の追加報告だ。決裁も要する。奥にいる監正に言ってもらえればわかる」
机に座った若い女が、長い髪を耳にかけ、相手に伝わるように眼鏡をくいと直した。
「本日、監正の予約はすべて埋まっております。確認後またご連絡いたしますので、所属とお名前をこちらに——」
差し出された紙を、握りつぶした。
手甲をつけた女が、睨むように眼鏡の女に顔を寄せた。
「なぁ。日が変わって即来てんだ。急ぎの案件だってことくらいはわかるだろ。どうでもいい主導権取り合いなんか本当にどうだっていいんだよ」
眼鏡をつけた女が、無表情のまま距離をとるようにのけぞった。わかりやすく鼻をつまみ、空気を入れ替えるように眼前を手で払う。
「武官の人員不足も極まってますね」
「お上品な態度はいいからさっさと取り次げよ」
乱入してきた女を睨んだまま、机に座っていた女が奥の間の扉を小さく開けた。半身だけをすり抜けるように部屋へ入れ、何らかのやり取りを行っている。
苦々しい表情で振り返った。
「今からで問題ないそうです」
「了解」
したり顔の手甲をつけた女が、資料を手に奥の間へ突っ切るように入っていった。
豪華な造りをしていた。
扉を抜けた奥の間は、床一面に大理石が埋め込まれていた。扉から入ってすぐの入り口には、視線を隠すためのついたてが置かれてある。その奥の広大な部屋の中には、巨木を丸ごと輪切りにして作った楕円の円卓と、それを囲むように複数の椅子が設置されていた。
椅子の中央に、白髪の混じった小柄な女が、お茶を手にちんまりと座っていた。
「
「どうぞ」
椅子に座った女が、座ったまま右手を広げた。
手甲をつけた若い女が、急ぎ足で駆けた。持ち込んだ資料を、その小さな右手に手渡した。
「昨日、大虚の対応を行った
「殲滅」
「はい」
「大虚を殲滅というのは、初めてではないですか」
「初、と思われます」
座ったままの小柄な女が、渡された資料に目を通している。
「具体的に、殲滅とはどのような状況を指しているのですか」
「通常、我々武官が用いる場合は、対象の行動を不能ならしめた段階のものを指します。監正もご存知の通り、望天も武官です。したがって、望天からの報告は同様のものかと思われますが、伝文に乗らぬ詳細は、本日、本人の帰着後にご報告があるかと思われます」
小柄な女がうなずいた。
「続いて、大虚発生と同時に観測された不明な術式に関してですが、これら術師のうち、一部の者の詳細が確定しましたのでご報告します。一人は、すでにご存じの通り、例の
「
座ったままの女から、小さく、強く声が出た。
「おっしゃる通りです」
「やはり、生きていたんですね」
手甲をつけた若い女が、一瞬の間の後、口を開いた。
「術後、望天の報告では、死んだとのことです」
「死んだ……」
小柄な女が、唖然としたまま沈黙した。
手甲をつけた女が、動かなくなった女の前に移動し、手元の資料をめくった。
小柄な女が、示された個所を見、眉を吊り上げた。
「これは——」
「当該の者、発見による事前準備の許可を、とのことです」
「なるほど……」
監正と呼ばれた小柄な女の視線が、資料へ釘付けになっていた。
しばらくだった。
険しい表情で資料を見た後、小さく、決断した声が出た。
「事前準備を、許可します。ただし詳細は、望天が到着次第、私が直接確認をします」
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