第20話 二人きりで水族館②

 二人とも御手洗いで手を洗った後は、エイやジンベイザメなどがいる水槽の場所に来た。


「で、でかっ!」

「おおっ、迫力あるなやっぱり」

「エイの顔って可愛いわよね」

「あー、あれか・・・」

「うわー、可愛いって思ってないわね?エイの可愛さが分からないなんて、まだまだね」


 「こんなに可愛いのに〜」と目の前でエイにデレている西条には一旦構わないことにした。


「本当にでけーな」

「この水槽の中の魚ってサメに食べられたりしないの?」

「どうなんだろうな、何匹か食べられてるかもな」

「そうよね、ガオッー!って感じだもんね」

「・・・・・それはライオンでは?」

「・・・・・うっ、うっさいわね!とにかくガオッー!て感じなの!」


 そんな感じでツッコミを入れたら、恥ずかしかったのか西条がぽかぽかと肩を叩いてくる。

 おぉ〜よしよし、と頭を撫でて西条をなだめる。この時の感覚は小さい子を落ち着かせるような感覚に似ていた。


「・・・・・じょうぶ」

「へっ?なんて?」

「もう大丈夫だから!手を退けなさい!」

「あぁっ、悪い悪い」


 子供扱いしすぎたかな?と思いつつも、落ち着いてくれたので良かった。



「ほらっ、次行くわよ!」

「次はどこ行くんだ?」

「そうね・・・・・随分見て回ったから、あと一時間くらいでイルカショーが始まるわね」

「だから、見てないところ・・・・・・を」

「ん?どうした?」


 西条がピタリと止まり、横をジッと見ている。西条の視線の先には、【カップル限定!記念撮影!〜思い出を残して】と、書いてあった。


「えっと・・・・・まだ、回ってないところは」

「あれやりたい」

「えっと、でもあれはカップル限定であって」

「いいから!行くの!」


 と腕をがっしりと掴まれ強引にスタッフの所まで連れて行かれる。


「そこのお二人どうですか?思い出に写真を残してみませんか?」

「いえ、俺たちは・・・」

「はいっ!是非!」

「ちょっ、おい!」

「いいでしょ?まだ時間あるんだし!」


 そう言って写真を撮ったが、シャッター音が鳴った瞬間俺は目を閉じてしまった。

 そして、案の定渡された写真を見たら俺はだけ開いていた。


「あははっ!アンタ事故画になってるじゃん!」

「仕方ないだろ、目閉じちゃったんだよ」

「見て!モニターにアンタの事故画が・・・あはははっ!!!」

「・・・笑いすぎだろ」

「つい面白くて、アンタはどう?写真撮ってよかった?私は良かったけど」

「西条はそうだろ、俺の事故画見れてそんなツボってるんだか」


 俺はと思いもう一度写真に目を落とすと、俺は事故画なのは変わらないのだが、隣にいる西条は満面の笑みで写真からでも伝わってくる可愛さだった。


 少し恥ずかしくなり、自分の顔が赤くなっていくのが分かった。

 赤くなった顔を見られないように、腕で顔を隠した。


「写真・・・撮って良かった」

「でしょ?!えへへ〜思い出っ!」


 と言い、西条はその写真を胸に当てギューと抱き締めている。

 


「あっ!イルカショー!始ま・・・・・る」


 ドンッと西条が俺にもたれてきた。


「西条?おいっ!西条!」

「なによ、大きな声出してうるさいわね」

「悪い、少しおでこ触るぞ」


 そう言って、おでこを触るととても熱かった。


「やっぱり!どうして、無理してたんだ」

「だって・・・・・楽しみだったんだもん」

「イルカショーは見ないで帰るぞ」

「・・・・・・やだ」

「こんな時にワガママ言うな」

「だって!今日は・・・お仕事頑張って、やっと空いた休みだったんだもん」

「とにかくっ!今はお前の体の方が心配だ」


 そう言って西条の腕を掴むと、柔らかくも今にも壊れてしまいそうな細い腕だった。


「イルカショー・・・観る」

「・・・・・今度でいいんだったら観に行こう」

「本当っ?」

「ああっ、西条の予定が空いたらだけどな」

「二人きり?」

「・・・・・・ああ」

「ふふっ、そっか」



 そう言い、水族館を出て、タクシーで西条の家まで送り届けた。

 幸いバイトで貯めたお金を持って来ていたので二人分は払った。


 家に着く頃には西条の様子はとても辛そうだった。


 ふらふら、しているので危ないと思い、西条をおんぶして、部屋まで連れてこうとした。


「西条、お母さんとかって」

「・・・まだ帰って来てないと思う」

「分かった」


 西条から鍵を借りて、玄関の鍵を開ける。


「お邪魔しまーす」


 そう言って、西条を下ろして靴を脱ぎ次はお姫様抱っこで、西条の部屋に連れて行く。

 そしてそのまま、ベットに放り込む。


「何か食べたいものあるか?」

「んーと、お粥」

「分かった」

「作ってくれるの?」

「味は期待するな」

「・・・嬉しい」


 テーブルに西条の家にあった市販の薬と水を置いておく。


 優はスマホでレシピを見ながらお粥作りを開始した。

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