第19話 二人きりで水族館①

 俺は今西条と二人で水族館に来ている。自分も誘われた時は心臓が飛び出るかと思ったくらいびっくりした。


 時は少し遡り、一昨日の出来事だった。いつも通り、朝ごはんを食べながらスマホでニュースを見ていた時のことだった。


 ピロンッと西条からメールが届いた。


『アンタ!2日後空いてる?空いてなくても空けなさい!』


 というメールが来た。最初は友達に送るのを間違って送ってきたのだろうかと思い、『間違ってないか?』と送ったところ


『アンタ・・・バカにしてんの?』


 と怒った様子のスタンプを添えて送り返してきた。


『まぁ、予定はないけど』

『じゃあ、水族館行くわよ!チケット二人分手に入ったから』

『それはいいけど、なんで俺なんだ?』

『暇そうだからに決まってるでしょ!』


 俺をなんだと思ってるんだ、実際暇だから何も言えないのだが、他人に"どうせ暇"などと、思われていると思うと、少しガッカリするものだ。


 とまぁ、こんな感じで、今二人で水族館に来ている。


「・・・・・って、おーい!聞いてるー?」

「あぁっ、聞いてるぞ?」

「じゃあ、今私が行きたいって言った場所はどこでしょーか」

「えっ、えっと・・・聞いてませんでした」

「はぁ、、イルカショー観に行きたいって言ったの!」

「イルカショーか・・・いいんじゃないか?」

「ほんとっ?でも、始まる時間が二時間後くらいだから他のところ回ってから行こ?」

「あー、じゃあ・・・・・」


 と言って、イルカショーを観る前にクラゲが沢山いる場所に来た。


「すごーい!めっちゃ映えるじゃん!」

「ふよふよしてんな、でもクラゲって毒持ってるよな?」

「こんな可愛いのに?」

「あぁ、ほとんどは無害だけど、なんか毒がえげつないのもいるらしい」

「それ聞いた瞬間怖くなってきたんだけど」


 西条はそう言い、クラゲをジッと見ている。


「でも、本当に綺麗」


 俺達は沢山のクラゲにバイバイと手を振ってクラゲを後にした。


 次に俺達が行った場所は、ナマコやヒトデがいるところだった。

 小さな子供なども、水槽に手を入れてナマコやヒトデを触っている。


「西条せっかくだし触ってみろよ」

「えっ?!で、でも少し怖いから・・・」

「ぷっ、ふふ」

「な、なによ!悪い!?ナマコが怖くて!」

「いや、案外可愛いところあるんだなって」

「か、可愛い・・・・・・」


 西条は顔をほんのり赤くして、自分の髪をくるくると弄っている。


「ほら、別に怖くないぞ?」


 俺はまず先に触って無害であることを西条に見せた。


「じゃ、じゃあ・・・」


 西条は恐る恐るナマコに手を伸ばす。


「な、なんというか、すごいわね・・・でも、ちょっと可愛いかも」

「ナマコが?」

「ナマコが」


 そんな話をしていると、隣の小学生くらいの子が


「ままー!隣でカップルがナマコ触ってるー」


 と元気な声で喋っていた。その子供のお母さんは「こらっ、迷惑でしょ早くこっちきなさい」と子供の手を引き、こちらにぺこりと、一礼して去っていった。


(傍からみると、カップルに見えるのか・・・)


「か、か、カップルですって・・・」

「あぁ、なんかそう見えるらしいな」

「嫌?」

「いや、別にそういうわけじゃないけど、なんだか恥ずかしい」

「あははっ、私も」


 と、西条は元々薄いチークをしていたが頬を見るとになっていた。


「ナマコ触って少し手ヌメヌメしてるから御手洗い行って来てもいい?」

「ああっ、俺も手洗いたいからいいよ」


 そう言ってトイレに行こうと向かっていた時、西条の顔色が悪いような気がした。

 足元も少しふらついて見えた。


「なぁ、西条大丈夫か?」

「・・・なにが?」

「いや、その体調とか」

「体調なら、このとーり!元気いっぱいよ!」


 そう言って細い腕を上げて力こぶを見せてくる。優はどうしてもそれが、から元気に見えてしょうがなかった。



「無理はするなよ」

「・・・・・・してないわよ」

「なら、いいけど・・・・・・」


 西条は「心配してくれてありがと」と言って御手洗いに行ったが、その時の笑顔も頑張って作っているんじゃないかと思ってしまった。

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