第17話 終業式それと買い物

 今日は一学期の終わりの日つまり終業式というやつだ。

 みんなもう夏休み気分で担任が教室に入ってきたというのに、まだ静かにならない。


 担任から、配布物や成績表などをもらって、夏休みの心得を聞かされて、終業式は終わった。


「なぁ桐島今日さ、このあと空いてる?買い物付き合って欲しいんだけど・・・」

「あー、悪い今日は先約があるんだ」

「そっか・・・それなら仕方ねぇな」


 涼の表情がしゅんとなってしまったが、こちらも西条との約束を破る事はできなかった。


 ⭐︎ ⭐︎ ⭐︎


「あっ、やっときた」

「悪い結構待ったか?」

「・・・・・30分くらいよ」

「そんなに待ってたのか、でもまだ集合時間の30分前なんだけど・・・」

「買い物ってなると、気分が上がっちゃって、早く来すぎちゃったのよ!」

「遠足前の小学生かな?」

「う、うるさい!!」


 頬を少し膨らませて、ムッとした表情で、言ってきた。

 しかし、その姿を見ても怖いじゃなく、可愛いが勝ってしまうのは何故だろうか。


「ほらっ!早く行くわよ!」

「はいはい」


 そこにはムッとした表情はなく、まるで小学生のような無邪気な笑顔があった。


(本当に楽しみにしてたんだなぁ・・・)


 しかし、わからないこともあった。なぜそこまで楽しみにしているのか優には分からなかった。自分の水着を買うならまだしも、男子の水着を一緒に買うというのだから。



「どんなのが欲しいの?」

「んー、派手なやつ以外で」

「ま、そうよね、じゃあ・・・・・こういうのでいいんじゃない?」


 と言って見せてきたのは、紐はオレンジなのだが、それ以外は黒一色だった。


「あ、これいいな、値段的にも丁度いいかも、じゃあこれ買ってくるから、外で待っててくれ」

「何言ってるの?次は私の番でしょ?」

「・・・・・私の番?あっ、選んでてもいいぞ?俺外で待ってるから」

「私の水着見て感想言ってくれなきゃ分かんないじゃない、バカなの?」


 いきなりそんな事を言われても、頭の整理が追いつかなかった。

 何故か俺は西条の水着を見て、感想を述べなければいけないらしい。


「まずは、こっちの白の水着に着替えるから」


 そういうと、白の水着をとり試着室に入っていった。


(待て待て待て、どうすりゃいいんだ?この状況・・)


「じゃーん!どう?この白の水着似合う?」


 そう言って西条は勢いよく、試着室のカーテンを開いた。


「おぉ、似合ってるぞ」

「これはダメか・・・」

「えっ?別にいいと思うけど」

「ダメって言ったらダメなの!」

「そっ、そっか・・・」


 女の子には、複雑な事情があるらしい。


「じゃあ今度はこの水色のは?」


 そう見せてきたのは、水色のビキニだった。目線が下がると、どうしても谷間が見えてしまう。


「い、いいんじゃないか?」

「ちょっと!ちゃんと見てないでしょ!ほらっ、どう?似合ってる?」

「似合ってると思うけど・・・その」

「・・・けど?」

「肌の露出が多いような気が・・・」


 それを言われて、顔をほんのり赤くして、西条は俺の肩を叩いてきた。


「なんでそんな事考えてんのよ!この変態!」

「仕方ないだろ!見えちゃうんだから・・・」


 それを聞いた西条はうわぁ〜と少し引いていた。


「あと、これは一男性としての意見、西条は可愛いし、それにその露出の水着だと、その、谷間がでてるから、変な男にナンパとかされちゃうかもしれないぞ?」

「あれ?心配してくれてるの?やさしぃ〜」


 とニヤニヤしていたので、俺は顔をプイッと晒した。


「ごめんごめん、ふてくされないで」

「別に、そんなんじゃない」

「でも、嬉しいなぁ、私のことそんな風に思ってくれてたなんて」

「なっ、べ、別に」

「じゃあこれはやめる!」


 と言い、また試着室のカーテンを閉めた。顔を見られないでよかった。

 見られていたら、顔が真っ赤になっているので、絶対からかわれていたと思い少し安堵した。


「じゃーん!これは?」

「・・・・・可愛い」

「可愛いって言った!これにする!」

「そんな、俺の意見でいいのか?」

「いいのよ!」


 そう言って、ニコニコしながらくるくると全身を見せつけるように西条は回っている。


「それに、あんたの意見を聞かないと意味ないし・・・」

「なんか言ったか?」

「なぁーんにもー」


 と言い、また西条はカーテンを閉めた。


(よかった、こんなところ知り合いに見られたら、終わりだぞ・・・)


 何事もなく買い物を済ませそう、そう思っていた。


「あれ?優?」


 聞き慣れた声で自分の名前を呼ばれた気がした。

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