第14話 帰り道 ②

「ありがとね、実際不安だったんだ一人で帰るの」


 西条の顔は暗くて見えないが、どんな顔しているのかはなんとなく予想がつく。


「西条・・・・・」

「でも、今は怖くないよ?一人じゃないから」

「まぁ、頼まれちゃったしな」

「ふふっ、断れないところ本当に、お人好しよね」

「勝手に言ってろ」


 少し話が盛り上がってきたところだが、二人の後ろの方から、コツコツとのようなものが聞こえて来る。


「なんか、さっきからつけられてない?」

「ちょっと!気付いてないフリしてたんだから言わないでよね!」

「いや、でも本当にずっと後ろの方から足音が・・・・・」

「さ、さっさと家に帰るわよ!」


 と、腕を引っ張られる形で西条の家に向かった。


「なぁ、もしじゃなかったら?」

「それ、どういう事よ」

「ほら、よくあるじゃん、そのとか・・・・・・」

「えっ・・・」


 それを言った瞬間と西条の足が止まった。


「な、な、なにをバカな事言ってるのよ」

「動揺しすぎだろ・・・」


 まさか、とは思ったが西条は幽霊が苦手というよりも、無理と言った方が正しいだろうか、幽霊の話をした瞬間足も止まり、明らかに動揺している。


 後ろから、「きゃあああああ!」という声がハッキリと聞こえた。


「も、もしかして、本当に・・・」

「きゃぁ!」


 西条はそう声を出して、右腕に力強く抱きついてきた。

 俺はビックリしたのと同時に、西条の確かな柔らかさの存在が、右腕に当たっていることがわかった。


「や、や、ヤバイよ、さっき女の人の悲鳴が」

「あ、あぁ、そうだな」


(そっちもヤバイけど、俺的に右腕にある感触もヤバイんですけど!!!考えないようにしてるけど・・・柔らかさがそれを邪魔してくる・・・・・・)


「あ、足音もどんどん近づいてきてるし、本当に私たち・・・」

「たしかに・・・ヤバイかもな」


 俺にとってこの「ヤバイかもな」には二つの意味がある事を西条にも分かってほしい。


「恵ちゃん?」



「なんでアンタいきなり下の名前で呼んでるのよ」

「はっ?読んでねーわ!」

「いや!今確かに・・・」

「恵ちゃん?」

「ほらっ!!」


 恐る恐る振り向くと、そこには女性の姿が、これには自分の人生もここまでかと、諦めた。


「ほ、本当の幽霊・・・・・」

「幽霊?いやぁね、実の母を幽霊扱いだなんて、泣いちゃうわよ?」

「あっ、良かったぁ〜本当だ、お母さんお帰り」

「えっ?今なんと?」

「だから、私のお母さん」

「ええっ?!じゃあストーカーとか、幽霊だと思ってた人が西条のお母さんだったってこと?!」

「そういうことになるわね」


 安心はしたが、それ以上にびっくりした方が強かった。


「それよりあなた達、どういう関係?」

「これには事情があって・・・決して彼氏とかでは」

「そうは見えないんだけど」


 西条のお母さんが指を指した場所は俺の右腕に西条が抱きついているところだった。

 これを見て彼氏と思わない人は少ないと思う。しかも、ちょうど電灯の光が当たり見えてしまっている。


「は、早く離しなさいよ!!」

「そ、そんな理不尽な・・・」

「あなた怪しいわね・・・・・」


 なんでこうも、ストーカーに疑われてしまうんだろうか、と自分でも考えていた。


「恵ちゃん、その男だれ・・・?」

「今度はなに!?」

「あちらの男性さっきも会ったような・・・」

「それって、ストーカー?」


 いきなり現れた男ははっきりと顔などは見えなかったが、右手に何かを握っているような感じだった。


「もしかしたら、凶器を持ってるかもしれません、僕が足止めしますので、お二人は早く逃げてください」


 一歩前に出たが、凶器を持っている相手に、自分に何ができるかと言われたら、何もできる気がしない。


「あなた・・・」

「何やってるのアンタ?!早くこっち来なさい!お母さんの邪魔になるから!」

「何言ってるんだ!そしたら西条のお母さんが」

「うふふ、心配しなくても大丈夫よ、久しぶりに張り切っちゃうんだから」


 俺は西条に引っ張られ、西条と二人でお母さんが前に行くのを眺めていた。


「なんだよ、お前、おばさんは引っ込んでろよ!」

「あっ、危ない!」


 ストーカー男はいきなり襲いかかった。


「だれが、おばさんですって!?」


 次の瞬間、西条のお母さんはストーカー男の服の袖を掴み、その男を地面に叩きつけた。


「せ、背負い投げ?!」

「ね?言ったでしょ?邪魔になるって」

「西条のお母さんって・・・」

「元柔道部だったらしいよ」


 その後お母さんは「押忍ッ!!」と言ってそのストーカー男に、「次やったら警察行きだからね」と脅していた。


「かっけぇ・・・」

「あらあら、ほんと?」

「はい!それはもうめちゃくちゃ」

「私にはあなたの方がカッコ良かったわよ?ねえ?恵」

「わ、わたしは別に」


 あんなのカッコよくなかったのに、お母さんは気を使ってカッコ良かったと言ってくれたのだと思う。


「あっ!そうだお茶飲んで行って?」

「い、いや、時間がもう・・・」

「それもそうね・・・じゃあ今度家に遊びにいらっしゃい、その時にお茶を出すわ」

「えっ、えっと・・・」


 西条の方を見て助け舟を出してもらおうとする。


「い、いいんじゃない?別に」

「ほらっ!恵も言ってることだし、ね?」

「じゃあ、今度来ます・・・」


 西条の家に遊びに行くという約束をして、自分のマンションまで帰ろうとしたら、後ろから走って来る音がする。


「き、桐島!」

「なんだよそんなに急いで」

「連絡先、教えなさい!ほらっ、何かと便利でしょ?そっちの方が、だから・・・」

「あぁ、いいよ」


 連絡先を交換するくらいだったらいいのだが、俺と交換しても、良いことないと思うが、西条の事はまだまだよく分からない。


「じゃあ俺はこれで」

「あと一つ、お母さんも言ってた事だけど」

「なんだよ」

「カッコ良かったぞ!」


 その時ニッと笑った顔が月の光と、電灯に照らされ、とても美しかった事は覚えている。



 俺は照れ臭くなり、「あぁ」とだけ返して、帰った。



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