第13話 帰り道 ①
(今確かに西条恵って言ったよな?)
咄嗟に嘘をつくか迷ったが、見た感じ嘘が通用する様な相手ではなかった。
「えっと・・・友達?以下、知人以上?」
「それにしては随分と楽しそうに喋ってた気がするんだけど」
「そ、そんな事ないですよ!」
それを聞いても、その女性は納得していっていない様子だった。
「僕からも一つ質問いいですか?」
「まぁ、こちらから聞いた訳だし、いいわよ」
「あなたは西条と、どういう関係なんでしょうか」
それを聞いて、飲んでいたコーヒーを置き、表情を一切変えずにこちらを向いて
「あの子のマネージャーです」
「あっ、マネージャー・・・・・って!えぇっ!?」
「そんなに驚く事かしら?」
この女性は俺の反応を見て、少し驚いた様子だった。
「そりゃあ驚きますよ!だって西条のマネージャーって言われたら」
「それであの子との関係はなんでもないのよね?」
「あっ、はい、別に恋愛感情とかは」
「えっ?」
それを自分の口から言った時、胸がチクッと何か
「いや、私は別にそういうことを聞いてるんじゃなくて、あなたが最近西条に付き纏ってるストーカーかと思って聞いたつもりだったんだけど・・・」
「えっ?ストーカー?僕がですか?」
「ええ、違うの?」
「違いますよ!なんで僕なんですか!」
「えっと・・・なんとなく?」
見た目に反して、ポンコツなのかな?と思ってしまいたいほどだった。
「まぁ、アイドルとの恋愛はしちゃダメって訳じゃないから」
「なんでそれを今言うんですか」
「だってさっきの言葉、絶対本心じゃなかったし」
それを言われて、自分でも本心じゃないのは分かっていた、しかし、西条と喋ったり笑ったりすることが心地よいと感じただけであって、決して恋愛感情というものではないと思っていた。
「まぁ、若いんだし色々考えて、交際しなさい」
「だから、なんでそうなるんですか」
「ま、あなたがストーカーじゃない事は分かったわ疑ってごめんなさい」
「僕は大丈夫です、それよりそのストーカーの話聞かせてください」
この女性、七森さんが言うには西条は先週くらいからずっと、後ろをつけられているような感じがするらしい。
「じゃあ七森さんが一緒に帰ってあげればいいじゃないですか」
「そうしたいのだけど、私とあの子じゃ仕事が終わる時間がたまに一緒になるくらいなのだから・・・・他のメンバーの子達も帰る方向違うし・・・」
「じゃあどうすれば・・・」
うーん・・・と悩んでいると、七森さんがじっとこっちを見つめてくる。
七森さんは、美人なので見つめられると、恥ずかしくなってしまい、思わず目を逸らした。
「いる・・・」
「えっ?誰ですか?」
「あなた」
七森さんはそう言ってきた。
「ぼっ、僕が西条と帰るんですか?!」
「桐島君しかいないのよ、お願い」
「そんな、頭を上げてください」
「じゃあ・・・」
「はい、ちゃんと西条のこと家に送り届けます」
「本当にありがとう」
まぁ、悪い話ではなかったのだ、自分的にも西条と一緒に帰れるというのは、とても楽しみな事だ、西条といると、つまらない会話ですら盛り上がってしまうからだ。
「桐島君にとっても、私にとっても悪い話じゃないわね、勿論恵にとってもね?」
「どういう意味ですかそれ」
「じゃあ、恵には私から連絡しとくから今日からお願いね?」
「あっ、はい」
今日からと聞いて、少し緊張してしまう。
「恵には、桐島君のバイトが終わるまで待ってるように言っといたから」
「待たせるのなんだか、悪いですね」
「桐島君は優しいんだな」
「えっ?」
七森さんは、大きく背伸びをした後に立ち上がり「コーヒーまた飲みに来る」と言って仕事に行った。
⭐︎ ⭐︎ ⭐︎
「優君もう上がってもいいんじゃないかな?」
「吉田さん、でもまだ仕事が」
「私がやっとくから、早く彼女の所行ってあげな」
「えっ?彼女って・・・」
肘で脇腹を突かれて、扉の方を見ると西条が立っていた。
「すみません吉田さん、今度吉田さんが用事ある時は、僕が代わりますね」
「ははっ、お願いするよ」
そう言って、早めに上がらせてもらって西条のところに向かう。
「え、えっと、その、よろしくお願いしましゅ!」
「ぷっ!噛んだ・・・ふふっ」
「し、仕方ないでしょ!緊張してるんだから!」
「緊張してるのか?」
「う、うん」
「そっか、そうだよな」
「えっ?」
「だって、ストーカーに遭ってるかもしれないんだもんな」
「・・・・・・・・・」
それを言うと、西条が呆れたような表情をしていた。
通り過ぎた吉田さんも「何やってるの」みたいな顔をしていた。
「あ、あれ?俺なんかした?」
「早く行くわよ!」
「なんで怒ってるんだよ・・・」
「別に怒ってないわよ!きちんと守ってよね!」
「無事に家に届けてやるよ」
そう言って2人で西条の家に向かった。
(西条に頼りにはされてるのかな)
「ストーカーは怖いけど、それで緊張していた訳じゃない」
「どうしたよいきなり」
「私はあんたと、あんたと」
「俺と?」
「ふ、ふたりきりだから」
1番重要そうな所で、バイクが物凄い音を出しながら通りすぎて行った。
思わず、西条を自分の腕の方に引き寄せた。
「大丈夫か?西条それで俺がなんだって?聞こえなかったんだけど」
「なんでもない・・・・・・」
「なんだよ、気になるだろ」
「なんでもないったら!」
そう言うと西条は俺の肩を叩いてきた。
「いたっ!なにすんだ!」
「あっー!うるさいうるさい!バカ!バカ!バカ!」
なんなんだ、いきなりコイツはと思いながらも、薄暗い歩道を歩いて行く。
ストーカーなんて、西条の思い過ごしなんじゃないかと思った。
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