第11話 ライブ

「つ、遂に来てしまった」


 緊張のあまり息を呑む。


「と、とりあえず会場に入ればいいのか?」


 会場に入ろうとしている人達もちらほら見えた。すると後ろの2人組の男性ファンの話し声が聞こえてきた。


「そういえば、お前って誰推し?」

「俺?めぐちゃん」

「あー!可愛いよなぁ大人っぽいというか」

「分かるわ!慰められてぇもん」


 めぐちゃんって西条の事か?いや、だけどアイツが大人っぽいなんて言われるわけがない、生意気で、それでいて急に怒ったりする奴だぞ?


 と勝手にめぐちゃんは西条ではないと思い込んでいた。


「と、とりあえず、このサイリウムだっけ?これだけは買っておくか」


 しかし、西条のメンバーカラーが何色か分からないので、悩んでいた。


「お、お客さん、混んできていますので早めに決めてください」

「あっ!すみません!じゃ、じゃあ!西条恵のカラーで!」

「黄色ですね」


 黄色ですねと、少し冷たく返され、少し恥ずかしくなってしまう。

 しかし、黄色と聞いて、十分納得していた。イメージ的にアイツは黄色だと勝手に思っていたからだ。


「うはー、結構な人数いるんだなぁ」


 その会場は満員で、何千人と入るレベルの場所だった。


(改めて考えると、西条って本当にアイドルなんだよな)


 考えてみればそうだ、初めて西条がアイドルと知ったのも、雑誌で知ったのだから。


「おっ、始まるんじゃないか」


 男性客の声が聞こえて、ステージに目線を置く。


(なんだあれ?仕掛けのようなものか?)


 すると、いきなり暗くなり、そして、電気が点いた瞬間、紙吹雪のようなものが勢いよく、宙に舞い煙のようなものも噴出した。


 それと、ほぼ同時くらいに「うぉぉぉぉおお!」という歓声が会場全体に響いた。


(なっ、なんなんだ!)


 急いで耳を塞ごうとした手は、ステージを見ていたら、自然と手が止まっていた。


 そこには、派手とは言わないが、衣装を着たアイドルが立っていた。そのまま、一曲目に入った。しかし、歌やダンスは最初、とても良いと思った。


(歌もダンスも上手だなぁ・・・・・あっーーーそれで西条はどこでヘマしてるんだ?)


 えっと、西条は・・・と探していると、自分で評価していた、歌とダンスはもう頭の中に入ってこなかった。


 なぜなら、1人のアイドルにになっていたからだ。


(うっ、嘘だろ・・・あれが、西条・・・?)


 とても、可愛らしく、満面の笑みをこちらに向けると、こちらまで笑顔にされてしまいそうな、嫌な事を全て忘れさせてくれるような笑顔だった。


「す、すげぇ」


 それを言った瞬間、西条が振り向いた。西条と目が合い、微笑んできた。


「今!俺と目あったよな!絶対あったわ!」

「いや、俺だろ!」


 などと後ろで話しており、その中の1人だと自分も自覚した。

 しかし、絶対に自分と目があったと、思いたかった、そうであって欲しかったのだ。


⭐︎ ⭐︎ ⭐︎


 ライブは2時間くらいやっていたのに一瞬で終わったように感じた。俺は西条恵という1人のアイドルに虜にされた1日だった。


 電車に揺られてとても、眠たくなってくる。今日の疲れがどっと、押し寄せてきた。


 電車に揺られながら考えていたことがある。


(もし、西条の片想いの相手が俺だったら・・・・・・)



(なんて!ないない!、てか、まず何で俺が西条の片想いの相手が俺だったらなんて考えてるんだよ!)


 「なんで、俺あの時取られたくないって思ったんだろう」


 小さくボソッと呟いて、ひとみを閉じるそのまま、目的の駅まで、ぐっすりと眠っていた。

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