第9話 アイドルの聞いて欲しい話

 をして来た西条は、俺に用があったらしい。

 しかし、まだバイトの勤務時間なので、流石に西条の話を聞く事はできない。


(怒らせないように、断らなきゃな)


「悪い、まだ勤務時間だから、また今度でも・・・・」


 それを聞いた西条は、とても不服そうな感じだった。まぁ、今回ばかりは仕方ないという感じで何も言ってこなかった。


「優ー?」

「ほら、店長も呼んでるし」


  ナイスタイミングすぎる店長と思いながら店長の方に駆け寄ると


「あっ、お客さん少なくなって来たし、もう上がっても大丈夫だよ〜」

「えっ?でもまだ勤務時間・・・・・」

「いいからいいから!本当に人足りてて、正直言ってやる事なんもない」


 笑いながら店長は言っているが、これではさっきの西条に言ったことが無しになってしまう。


 恐る恐る振り返ると、案の定西条が、ニヤニヤした笑みを浮かべながらこちらに手を振り明らかに俺を読んでいる感じだった。


「なんだよ」

「もう上がっても大丈夫なんでしょ?じゃあ・・・」

「あー!そういえば!今日は大事にアニメの続きが・・・・・・」

「はぁー?!せっかく私があんたに相談があってきたのに、ほったらかしにするわけ?!」

「そんなこと言われても・・・」

「あっ、そういえば優の好きなアニメ今日延期だった気がするんだが」

「・・・・・・」


 店長、俺がその事を知らないわけないだろ!と言いたくなったが、心の中にグッとしまい込んだ。

 その事を聞いて西条は勝ち誇った顔をしていた。はぁっ、と少し小さなため息を吐いて、西条の座っている、向かいの席に座った。


「それで?話ってなに?」

「えっとね、前に元カレの話したじゃない?」

「ぶっふ!ゴホッゴホッ」


 元彼の話といきなりきたもので、むせてしまった。西条には、何してるのよ、そんなに驚く事?と言われてしまった。


「その元カレから、また連絡が来たの、これって・・・・・・」

「それはやめといた方がいい」

「えっ?」


 あの男はどうせ西条の事を大切にしてくれるとは思わなかった。発言や行動から、そう感じただけだが、とてもいい男、とは思えなかった。


「西条には悪いが、あの男のどこが良かったのか俺には分からない」

「・・・・・・・・・」


(あっ、やばい結構酷いこと言っちゃったな)


「わ、悪い!でも、その元カレに俺2回会ってるんだ、それで話聞いたら、酷い奴だったから・・・」


 絶対西条に怒られるそう確信していた。自分が好きになった人のことを悪く言われたんだ、誰だって怒る。



「やっぱりかぁ〜」


 意外にも西条は普通だった。


「2人が会ってた事は知ってるの」

「ええっ!!知ってたの?」

「元カレが、教えてきた」


 それを聞いて、すぐに納得する。


「あとね、もう元カレに未練はない!だから最後にバーカ!って送ってブロックしてやったわ!」


 えっへんと胸を張っている西条を見て、目のやり場に困ってしまい、下を向いてしまう。


「でもね、アンタは一つだけ間違ってる、確かにアイツはクズで、ゴミで最低な人間だと私も思ってる、けどね、アンタには良いところが分からなくても、私には良いところが分かるの、好きになるってそういうものじゃない?」

「そ、それは」

「だからね、あの人の悪口は言わないで欲しい」

「ご、ごめん」

「ふふっ!やーだ」

「なんだよ、それ」


 初めてかもしれない、自分の発言に反省をしたのは、いや、沢山あったはずだ、しかし西条に言われるとなぜか、初めてこんな気分になったんじゃないかと思うくらい、胸がズキズキした。


「話聞いてくれてありがとね!」

「もう、吹っ切れたのか?」

「うん!その事を報告しに来ただけだし!あと、新しい恋も見つけたし・・・まだ、私の一方的な片想いだと思うけどね」


 それを聞いて、さっきとは違う胸の痛みがズキズキとしてきた。


「新しい恋?もう見つけたのか?」

「女の子はいつまでも待ってくれないのよ!って直接アイツに言ってやりたいわ!」

「あはははっ・・・・・・」


 この時の表情は、覚えていない。


「あっ、そうだ今日話聞いてくれたお礼」


 そう言って、西条は自分のカバンをガサゴソと漁っている。


「あったあった!はいこれ」

「なんだこれ?」


 渡されたのは、何かのようなものだった。


「それ、今度ライブやる時の1番良い席のチケット」

「えっ?ライブ?」

「そうよ?別に捨ててくれても構わないわ」

「捨てるって・・・」

「まっ、興味が少しでもあったら、見に来れば、良いんじゃない?」


 そう言って、タピオカ美味しかったわと言い西条は帰っていった。


「ライブのチケットねぇ〜」


 さっきの新しい恋ということが突っ掛かってしまう。こんな気分は自分でも分からないほどだった。


 しかし、せっかく貰ったのに、行かないというのも、このチケットが欲しかった人も居るだろうに、そう考えると、行かないわけにはいかない。


「てんちょー?この日って空いてましたっけ、」

「なんだその気の抜けた声、まぁシフト入ってるけど、休みにしとくから、そのライブ行ってこい、その代わり他の日にきっちり働いてもらうからな」


 これを聞いて、店長って、こんなに優しかったっけ?となり、今だったら店長を好きになりそうだった。


「店長って、案外優しいんですね」

「案外じゃねえ、超絶優しいんだ俺は」


 それを聞いて安心した、いつもの変な店長だった。

 ライブかぁ、そういえば人生初めてのライブだな

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