第8話 変なもやもや

 優は、いつも通りバイトの、レジ打ちをしている最中だったが、ずっと、もやもやした気持ちになっていた。


 (なんだよ・・・・・この気持ち)


 この気持ちは、数日前、西条の元カレという男に会った後くらいからだった。


(そうだ・・・!あいつと会ってから、ずっとこのモヤモヤが消えないんだ)


「あの〜、何か私なんかしちゃいました?」

「えっ??」


 目の前のお客さんが、恐る恐る聞いて来た。


「何もしてないと思いますけど・・・」

「良かったです。とても怖い顔をしていたので、てっきり何かしちゃったものだと」

「もっ、申し訳ありません!」

「ふふっ、大丈夫ですよ」


 どれだけ、怖い顔をしていたのか、お客さんには申し訳ないことをしてしまったと、反省した。


 その後、滅多に怒らない店長から、お叱りのお言葉をいただき、今日の仕事は終わった。


「はぁ〜、だいたい、なんで俺が西条の事でもやもや、するんだよ」


 考えてみればそうだ、フラれたか、なんだか知らないが、なんで俺が・・・・・これからの事を一瞬考えようとしたが、少し背伸びをして、考えることをやめた。


「やぁやぁ、桐島君偶然だね」


 自分が呼ばれた気がして、振り返ると、数日前のあの男が立っていて、目が合ってしまったが、関わりたくはないので、無視をした。


「ちょっと?!無視は良くないなぁ〜はぁ、はぁ、」

「まさか走って来たんですか?」

「聞きたいことがあって」

「なんですか?」


 何を聞かれるんだろうと思い、息を呑む。


「桐島君って、恵のこと好きでしょ?」

「はっ??何言ってるんですか?」

「えっ?!違うの?」

「違いますよ!なんで僕が西条の事を好きってことになるんですか!」

「だって、今日一日ずっと浮かない顔してたじゃん」

「えっ?なんで知ってるんですか?」

「・・・・・・・・・」

「まさか、ずっと見てたんですか?」

「・・・・・・・・・」


 何も反応がなかったので、スマホを取り出しすぐさま警察の番号を打った。


「どこに電話してるの?」

「えっ?これからあなたがお世話になる警察にですけど?ストーカーさん?」

「ご、ごめんって!つい気になって」

「えっ!?まさか、男の方が好きだから、西条と別れたんですか?!辛い恋だったんですね・・・」

「ちょっと待って!俺どんどん変な奴になってない?!」

「僕と最初会った時から変な奴ですよ」


 その男はそれを聞いて、そんなぁ〜と言いながら少し俯いている。


「話を戻そう、恵のこと本当に好きじゃないんだね?」

「なんですか、そうですよ」


 西条の事で、もやもやする事はあっても、これが恋だとは思わなかった。


「じゃあ俺が狙ってもいいかな」

「はっ?どういう事ですか?」

「桐島君が、恵のことを好きだったら、諦めたんだけどね」

「なんで、また急に」

「最近あのウザったらしい、連絡が来なくなったんだよ、なんか寂しくなっちゃって、俺が好きって言ったらどうせ戻って来てくれるかなって」

「本当に最低ですね、じゃ。僕はこれで」


 それ以上聞いてると頭が痛くなりそうだったので、逃げるように自分の部屋に帰った。


 その夜はどうしても眠れなかった。「俺が狙っても良いかな?」その言葉が、ずっと頭から離れなかったからだ。


 その事を考えるたび、胸がチクチクと痛かった。


「なんだ、この感じ」


 翌朝、学校には、寝不足のまま行き、バイトも眠すぎて、集中が全くできていなかった。


 そんな時、1人の女性客だろうか、サングラスにマスクをした客がやってきた。

 しかし、優にはその客が誰なのか、すぐに分かった。


「はぁ、何やってんだよアイツは」


 何故ここで、すぐにアイツだという事が、分かったのかは自分にもわからない。


「お客様ご注文をどうぞ」

「えっと、、、タピオカミルクティーで、」

「サイズが、S M L とありますが」

「じゃあMで」


 呑気にタピオカなんか頼んでんじゃねぇ!と言ってやりたくなったが、言葉をグッと押し殺す。


「タピオカミルクティーMでございます」

「ありがとうございます」

「ごゆっくりどうぞ」

「ぷっ、ふふふっ!」


 絶対に馬鹿にしてやがる。人が頑張っている姿を見て、楽しんでやがる。


 すると、その女性客は、もう一度店員を呼んだ。

みんな忙しそうなので、仕方なく自分が行く。


「なんでしょうか」

「ちょっと聞いて欲しい事があるの」


 そう言って、サングラスをあげて、目を合わせるが、別に驚きもしなかった。


「ちょっと!なんで驚かないのよ!」

「知ってるのに、驚くか?」

「えっ!?知ってたの!?私の変装完璧だと思ったのに・・・」

「えっ、まさか、普段の変装もその程度じゃないだろうな」

「・・・・・・」

「はぁ、それで?聞いて欲しいことって?」

「今バカにしたでしょ!」

「してない」

「嘘つけ!」

「用がないんだったら戻るぞ」

「えっとね、、、」


 さっきの笑顔や、表情が、少し辛そうな表情に代わったので、少し緊張してしまう。

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