第6話 アイドルの相談

 体調がすっかり良くなり、バイトも休みで、家でゴロゴロしていた。


 するとピンポーンと、インターホンが鳴る、もしかして西条かも、となぜか少しだけ期待しつつ玄関を開けた。


「宅配便でーす、すみませんこちらになります」


 ありがとうございます。と言いながら、注文した商品を受け取った。


 しかし、なぜか残念な気持ちになり、受け取った荷物を部屋に置きに行こうとすると、またインターホンが鳴った。



「なんだ、なんか忘れてたのか?、はーい今出まーす」


 そう言いながら、ガチャッと玄関を開ける。


「なんか、忘れ物ですか?」

「はっ?アンタいきなり何言ってるの」

「えっ?だって宅急便って、あれ?!」

「私のどこが配達員に見えるのよ」



 言われてみれば、さっきの人とは全く違う、まず性別が違う、しかも知っている人物だった。



「何しに来たんだよ西条」

「何って、様子を見に来てあげたんでしょ?」

「あ!おかげさまで体調はすっかり良くなった!ありがとうな!」

「あっ、当たり前でしょ?私が看病してあげたのよ?」


 少し、自慢気に胸を張りながら喋る西条を見て、笑ってしまう。


「それで?他に何かあるんだろ?」


 そう言うと、西条は少し表情を暗くする。


「相談があって・・・・・・」



 相談ってなんだ?、俺に相談する事なんてあるのか?そう思いつつも、立ち話は近所に迷惑になるので、部屋に上げた。



「それで相談って?」

「私、フラれたって言ったじゃん?」

「あぁ、怒りながら言ってたな」


 西条は雨の中公園で、彼氏と思われる人物にフラれたらしい。


「それで、どうやったら忘れられるかなって・・・・・・なにか良い案ない??」

「うーん、聞く相手を間違ってると思う」

「そうね、アンタモテなそうだし、付き合った事もなさそう」

「なにぃ?!俺も、1人や2人くらい・・・・・・」

「いるの?」

「・・・・・・いない」


 ほらやっぱりと、言わんばかりの瞳を向けられる、西条からの呆れの目だったのかもしれない。


「でも、どうしてそんなに忘れたいんだ?」

「どうしてって、辛いからよ、それしかないでしょ?」

「でも、辛い思い出だけだったのか?」

「そんなわけないっ!!」


 西条が、大きな声を出したので、少しびっくりした。

 大声を出した張本人の西条も、すぐに、はっとなり、「ごめん」と言って静まる。


「無理に忘れることはないんじゃない?」

「えっ?それってどういう」

「好きだった人の事をすぐに忘れるなんて、できないよ、時間をかけて、ゆっくりと気にしなくなっていくんだと思う」

「今はこんなに辛いのに?」

「あぁ、でもまだまだ人生長いんだから、これからもっと楽しいことがあると思うぞ」


 それを聞いた西条は少し吹っ切れた様に感じた。



「ありがとう。相談に乗ってくれて」

「いいや。こんなんで良かったらいつでも乗るよ」

「まぁ、あんまり頼りにはしないでおくわ」

「そこは嘘でも頼りにしてるって言ってくれ」


 あははっ!と甲高い声で西条が笑った。は


「やっと笑った」


 思わず声が出てしまった。それを聞いていた西条は、キョトンとした目をしていた。


「な、な、な、何言ってるのよ!!」

「いや、でも本当のことだろ?」

「そ、そうだけど」

「笑った顔の方が可愛いな西条は」


 西条の顔がどんどん赤くなっていき、林檎の様に赤くなっていた。


「顔赤いぞ?俺の風邪移ったか?」

「ちっ、違うわよ!バカ!」


 と言い、左頬に強烈なビンタを喰らいジンジンと痛みが来る。


 西条はフンッと言った表情で、すぐさま帰っていった。

 お礼も言えたので、満足はしていた。

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