第5話 アイドルが家にやって来た

 家が近いとは言ったものの、この土砂降りでは、家が近くても、凄く濡れてしまう。

 髪はもちろん、服も靴も、びしょびしょになっていた。


「うわぁ、びしょびしょになっちゃった」


 傘を貸した事を少しだけ、後悔したが、あの悲しい表情、声を聞いてしまったら、放っておけなかった。



「うわ、さむっ!・・・・・ヘックシュ!」


 あぁ、やばいかもしれない、人のことを心配するより、自分のことを心配した方が良かったかもしれない。


 ここのところ、バイトも少し忙しくなってきた時に、雨に打たれて、寒くなって、くしゃみも出た。おまけに今鼻水も出ている。


(これは、風邪をひく予兆だろ・・・・・)


 完全にそう思い、一旦シャワーを浴びようと、風呂場へ向かう。

 脱衣所で、服を脱ぎ、温かい水を出し、濡れた髪と体を洗っていく。



 その後にきちんと、水をバスタオルで拭き取って、髪の毛をドライヤーで乾かしたら終了だ。



「あぁ、本格的にヤバくなってきたかも」


 寒気や、頭痛、おまけに熱っぽさが出てきて、かなり辛い状態だった。


「あぁ、こんな時、美少女が看病してくれたらなぁ・・・・・」


 そんな事を言ったが、彼女は居ないし、友達を呼ぶのも申し訳ないので、仕方なく、偶然あった市販の薬と、冷えピタシートでなんとか、頑張る。



 ベッドに横になり、うとうとして、眠りにつきそうになった時・・・・・ピンポーン、部屋のインターホンが高らかに鳴り響いた。



 (ったく、こんなに辛い時に誰だよ)


 正直無視したかったが、何度もインターホンを鳴らされるので、流石にイライラするので、仕方なく出る。



「はいー、どちら様ですか?」


 少し、鼻声で言った先には、アイドルの西条恵が傘を持ちながら、立っていた。



「アンタ・・・その格好まさか、風邪ひいたの?」

「いや、その・・・・・・」


 と、少し、口ごもってしまう。素直に「はい」と言ってしまえば、西条は自分に傘を貸したせいで・・・と、思ってしまうかもしれないからだ。



「私に傘を貸したからね」

「ちがっ!それが原因じゃ・・・」

「バカねアンタ、それが原因に決まってるでしょ!」

「じゃあ、傘貸した俺が悪いってか?」

「そうよ、でもねアンタには、借りがあるから、仕方ないから、看病してあげる」

「へっ?今なんて?」

「2度は言わないわよ!」


 と、肩を叩かれた。その時の表情はあまり覚えていないが、ほんのり頬を赤くしていたように思えた。


「病人は寝てなさい」


 少し、ワントーン下がった声で怒られた。近くのスーパーで、飲み物や食材を買ってくるというので、ついて行くと言ったからだ。


「はぁ、なんでこんな事に、まさか本当に美少女に看病されるなんて・・・・・しかもアイドルだぞ?」



 ありえるのか?などと、考えていると、ガチャッと玄関の扉が開く音がした。



「ちゃんと安静にしてたでしょうね」

「してたよ・・・そんな、心配しなくても大丈夫だよ」

「キッチン使うわよ、お粥作るから、後飲み物は好きなの飲んで、薬も冷えピタシートも買ってきておいたから、心配ないわよ」

「すっ、すごい・・・」

「ぜ、全然凄くないわよこんなの」



 そう言いつつも、褒められたのが嬉しかったのか、口元が緩んでいた。


 その姿を見て、普通に可愛いと思ってしまった。そんなこんなで、お粥を作り始めて、少し時間が経ち、西条がテーブルにお粥を持ってきた。



「ほらっ、できたわよ、熱いから冷まして食べなさい」

「おおっ〜美味そう!てか、こうしてると看病される彼氏の気分」



 そう言って、すぐに地雷をふんでしまった事に気づく。


「ご、ごめん!無神経で、本当にごめん!」

「いいわよ、別に、早く食べちゃいなさい」

「うん・・・・・・あっ、美味しい」

「ほんと!?良かったぁ」


 と、ニコニコ満面の笑みを見せてきた。その笑顔に数秒見惚れてしまったのは言うまでもない。


 しかし、西条は、恥ずかしくなったのか、すぐにはっ、と我に帰り


「あ、当たり前でしょ?!誰が作ったと思ってるのよ!」

「あははっ!そうだな!」


 可笑しくなって笑ってしまう。

 


 お粥も食べ終わって、丁度眠くなってきた。


「後は寝るだけね、さっさとベッドに横になりなさい」

「えー、寝れなーい」

「ふざけてるんじゃないの、引っ叩くわよ」

「ぼ、暴力はんたーい!」

「しないわよ、そんなこと」



 やれやれと言った感じで、西条は、呆れていた。

その後に、西条の歌声が部屋に響き渡った。

 その歌声は、耳に入ると、体の内から疲れが消えていくような気がした。



 気付くともう、西条は部屋には居なかった。いつの間にか帰ってしまったのだろう。


「今度会ったら、お礼言わないとな」


 西条のお陰で、体調はすっかりよくなった。















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