第4話 土砂降りの中でもう一度

 あれから1週間が過ぎた。だからといって変わった事はあまりないが、強いて言えば前まで全く意識してなかったのに、公園の前を通るとまた居るのではないかと、思い、公園を覗くようになった事だ。



 別に彼女に好意を持っているわけではないが、どうしても、あの冷たく、落ち込んだ表情を見たら、心配になってしまう。


「優君ー?傘持ってきた〜?」


 とバイト仲間の吉田さんから聞かれる。


「いえ、持ってないですけど、どうしてですか?」

「今日天気予報かなり雨降るらしいから」

「えっ本当ですか?」

「嘘ついてどうするの」



 あまり天気予報は見る方ではないので、天気は運任せと、思っている。

 しかし、かなり雨が降ると聞いて、流石に傘は持ってくればよかった。



「優君ってー天気予報とか見ない人でしょー」

「なんで、わかるんですか?」

「んー?そんな感じがしたからかなー?」


 要するに勘で、答えたら当たったみたいなものだ。


 すると見事に天気予報は当たり、かなりの土砂降りになってきた。



「しかし、困りましたね。この雨じゃ傘をささないで帰るのは、結構厳しそうですね」

「店長に借りればー?」

「店長ですか、貸してくれるかどうか・・・・・」



 それを聞いて、吉田さんも確かにと、納得してしまっている。


「じゃあ、バイト終わったら急いで買いに行ったら?ちょうどコンビニ近いし」

「売り切れてない事を願ってます。」



 バイト先から近いコンビニはあるのだが、急に振ってきたので、傘が売り切れてないかだけが心配だ。


「すいませーん、注文いいですかー?」


 ポンッと背中を叩かれる。


「今はそんなこと気にしてないで、仕事に集中!注文、聞いてきて!」

「そうですね・・・・・行ってきます!」


 気持ちを切り替えて、注文を取りにお客様のところへ向かう。

 ふと気がついた、さっきから吉田さんが、俺にばかり、注文を取りに行かせる事に・・・・・



「吉田さん!自分がサボりたいから、僕を元気付けたんですか?!」

「あらら、バレた?」

「吉田さん・・・・・・」

「うそうそ!本当に君が落ち込んでたから、元気付けたんだよ!」

「まぁ、それならいいですが」


 少し嘘くさいが、元気付けられたので、結果オーライという事にして、終わった。



「じゃあお先に失礼します」

「うん、傘売り切れてないといいね〜」

「はい、急いで行ってきます!」


 と、吉田さんと、他のバイト仲間にも、挨拶をし、バイト先から急いでコンビニに向かう。



 最後の一本が売ってあった。タイミングがとても良かった。


 少しだけ濡れたが、傘も買えて、一安心して、ビニール傘をさしながら、ゆっくりと帰る。


 そして、またあの公園の近くに来た。土砂降りは続いており、誰も居ないと勝手に思っていたが、公園には2人が向かい合って立っている。



 こんな土砂降りの中、1人は傘をさして、もう1人は傘をさしてはいない。



(入れてやればいいのに・・・・・・)



 すると、いきなり傘を持った方が、迎えに来ていた車に乗り込む。


(いやいや、車あるんだったら傘貸してやれよ・・・てか乗せてやれよ)



 もう1人の方を見ると、動かずに立っているだけだった。

 少し心配なので、様子を見に行く。



「あのぉ〜大丈夫です・・・・・か」



 びっくりした。雨の中、傘もささないで、公園でずっと立っているのは、西条だった。



「また、あなたなの?今度は何?」

「何って、なんでこんなとこでまた、しかもこんなに雨降ってるのに」

「傘ないもの、仕方ないわ」

「もう1人の奴に借りれば良かったろ」


 すると、西条の表情が曇り、こちらを睨んでくる。


「見てたの?」

「わ、悪い、」

「で?バカにしに来たの?」

「何をだよ」

「私が・・・・・フラれた事をよ」


 正直怒鳴ってくるかと思ったら、とても静かな、そして冷たい声で言ってきたので、拍子抜けした。



「フラれたのか?」

「うん、まぁ、他に好きな人ができたんだって」

「・・・・・・・・・」

「まぁ、よくある話よ」



 その、辛そうな声を聞いて、とても胸が苦しくなった。声はずっと震えていて、今にも泣きたい気持ちもあるのに、話しかけてしまい、申し訳なかった。


「なぁ、このままじゃ、風邪ひくしシャワー浴びるか?」

「キモっ、流石にキモいわ」

「い、いや!別にそういう意味は決して」

「知ってるわよ、冗談よ・・・・・」

「なら、」

「今は1人にしてほしい」



 それを聞いたら、「はい」以外言えなかった。


「じゃあせめて、この傘使ってくれ」

「アンタが濡れるじゃない」

「俺の部屋はすぐそこだから大丈夫」

「大丈夫って、アンタねぇ・・・ってちょっと!」


 と半ば強引に押し付け、土砂降りの中走って帰る。



「ほんと・・・・・どんだけお人好しなのよ、バカ」








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