第3話 その子の正体
西条にベッドを貸したので、床で寝る準備をする。
「明日の朝になったら帰るから」
「あぁ、分かってるよ」
「ありがとね」
照れくさいのか、枕で顔を隠しながら、小さな声で言ってきた。
「なんだよ、急に」
「うっ、うるさいわね!いいから寝なさいよ!」
「うるさいのはお前の方だろ・・・」
疲れていたのか、2人ともすぐに眠りについた。
朝起きると、ベッドに西条の姿はなかった、テーブルに1枚の紙が置いてあった。
【1日泊めてくれてありがとう。挨拶もなしに出て行ってごめんなさい。気持ちよさそうに寝ていたから、わざわざ起こさなくてもいいかなって思って、手紙にしました。この出来事は誰にも言わないので安心してください。 西条恵より】
手紙にはそう書かれてあった。その手紙を読んで、女子高生を家に泊まらせたのは、夢じゃ無かったのかと、再認識する。
昨日とは違い、自分の部屋が少し広いように感じる。
(10時30分か・・・・・・)
時計をみると、バイトに行くまで後1時間以上あった。
とりあえず洗濯器を回してから、朝食の準備をする。パンにジャム、それと牛乳をテーブルに置き、スマホを片手に持ち、ネットニュースを見ながらゆっくりと、朝食を食べる。
ちょうど、アイドルの記事だった。昨日西条に書かれた事を思い出す。
「アンタ、アイドルって興味ある?」
アイドルか・・・・・・昨日言われた事が、少し気になり、その記事を読もうとした時・・・・・・テレレン♪とスマホが鳴った。
店長からの電話だった。まだまだ時間は余裕なのに、なんだろうと思い電話に出る。
「もしもし、桐島です」
「あー、優か?今って時間空いてる?」
「まぁ、はい、空いてますけど」
「マジか?!じゃあさ頼みがあるんだけど」
嫌な予感がした。嘘でも予定ありますと答えればよかったと後悔した。
「バイトの子、風邪で来れなくなっちゃってさ〜今から入れたりする?」
「ま、まぁ、良いですけど」
「よっしゃ!じゃあ、なるべく早く来て!」
とブツ、と切られそのままスマホを床に叩きつけそうになった。
「なんだ!あの態度は!それが人にものを頼む態度か!!」
怒っても仕方がないので、深呼吸をして、すぐさま、バイト先に向かう。
「お疲れ様です。店長」
と、休憩室でのんびり雑誌を読んでいる店長に目を細めながら挨拶をする。
「おおっ、とりあえずレジやってくれ」
「店長も働いてください・・・・・」
「俺はこれ読んでるから」
そう、優の前に広げてきたのは、アイドルの雑誌だった。
「これアイドルの、雑誌・・・・・ですか?」
「そうそう!俺この子が好きなんだよね〜」
と店長は、顔を気持ち悪いと言っていいほど緩ませていた。
ページを捲ると、見覚えのある顔がそこに載っていた。
昨日21時過ぎまで1人で公園にいて、部屋に泊まらせて、今朝手紙をテーブルに置いて行った。そう西条だ。
その、アイドル雑誌には西条が載っていた。
「おっ?優はやっぱり同年代のアイドルが好きなのか」
「い、いえ僕はアイドルとかは・・・・・」
「照れるな照れるな、ほら、これやるから」
店長から、アイドル雑誌を押し付けられた。
(絶対片付けるの面倒くさかった、だけだろ)
しかし、西条が何故アイドルの事を聞いてきたか分かった気がする。
アイドルという職業柄、自分を知っている人はなにかと都合が悪いのだ。
しかし、昨日泊めた女子高生がアイドルなんて事ありえるのか?、いや、実際あるのだから、なんとも言えない。
しかし、だからこそ21時過ぎまで公園に1人で何をしていたか気になる。
だが、彼女自身が言いたくないと言った事だから、それ以上は追求しなかったが
「おーい優、いつまでも雑誌読んでないで仕事しろ」
店長に、言われ慌てて時計をみると、もう通常の勤務時間になっていた。
長いこと、雑誌を眺めながら、考え事をしていたのであろう。少し反省しながら、仕事をしに、戻る。
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