第18話 ことの終わり

 夜宵と勝負してから一週間ほど過ぎたあたりだった。

 いいかげん痺れを切らしたのか、このままじゃビジネスホテルで余生を過ごすことになると判断したのか、夜宵はわたしに言ってきた。

「……わかりました。あなたの言う友だちとやらになってあげます。だから、わたしを自由にしてください」

 夜宵は背筋を伸ばして、わたしをまっすぐ見ながらそう言った。

「まじ?」

 わたしは手に取っていたチョコチップクッキーを思わず口にした。

「ほんとです。今日から、あなたと私は友だちです」

 わたしはクッキーを噛み砕きながら現実を受け止めようとする。

「………まじ?」

 無理だった。

「あなたが言い出したんですよ。私も一週間ずっと考えて出した結論です。今日からあなたと私は友だちですから、この縄をといてください」

 わたしは思わず手を伸ばし、次のチョコチップクッキーをつまむ。

「……ほんほにひーの?」

「こんなときに食べながら話さないでくださいよ。もちろんです。あなたの望み通り、私たちは友だちです。友だちは何するか、私に教えてください」

「………」

 わたしは夜宵の顔から目を逸らし、天井を見て、ドアに視線をやり、ふたたび夜宵を見た。

「YeeeeeEEEEeEEeeeEeEeEeeeESSSSS!!!!!」

 わたしはベッドの夜宵を押し倒して、ほっぺたどおしでほおずりする。

「ひゃーっ!!! やったー! 夜宵ー! よろしくねー!」

 夜宵はうっとおしそうに眉をひそめた。

「あんまりくっつかないでください。これが友だちの作法と言うなら渋々耐え忍びますが」

「うわーん! 友情の距離感が絶妙!」

 わたしは少しドキドキしながら夜宵の拘束を解いた。

 夜宵は暴れたり逃げ出したりせずに、ストレッチして自分の体の調子を確認していた。

「ふふふ。じゃあ、ひさしぶりの外に出よっか」

「はい」

「私は友だちと過ごすのがはじめてなので、どうかよろしくお願いしますね」

 夜宵がわたしのパーカーの袖をつまんで、語りかける。

 大きな目、凛々しい眉、小さな顔と鼻と口、そのあまりの造形のよさにめまいがする。

 わたしより背が低いのに、まるで彼氏みたいだ。

「は、はははい。こちらこそ、よろしくです」

 わたしの返答のぎこちなさに、夜宵はふっと息を漏らした。

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