第13話 決戦は金曜日
「ウナギ、血の量はまだ足りる?」
「問題ねぇ。あとは創意工夫だな」
広いグラウンドにはすべり台やジャングルジム、鉄棒や砂場などの遊具がならんでいる。
しかし、ネットで覆われたグラウンドは夜間立入禁止なので、これはただの不法侵入だ。
わたしはグラウンドを悪魔の血で黒く染めて、夜宵と戦うための陣地を作成していた。
「夜宵がこうくるとするじゃん、そしたらこうして」
「いや、あいつにそんな小手先のギミックは通じない。やるならもっと大胆に、想像もできないやり方でだ」
ああでもないこうでもないって、ウナギと言いあう。
これは、誕生日会みたいなもの。
飾りつけを考えて、進行を練り、サプライズを用意する。
夜宵を歓迎する、パーティーの準備。
「招待状はどうする?」
「グランドにでっかく書いとけよ。〝EXIT EXOCIST〟ってな。あいつは必ず来る。そういうヤツだ」
わたしは右手の手の平を口に変え、爪を歯に変えて、もう一匹のウナギを右腕につくる。
その口から吐き出した黒い血で、グラウンドに宣戦布告を書いていく。
夜の天ヶ裂公園には人気はほとんどなく、ちらほらいたとしても、公園を黒く染めるピンク髪のわたしを見て関わらないように避けていた。
ここはわたしと夜宵のステージだ。
「ウナギ、絶対に殺さないでね」
「夜宵にそんなこと言えんのは、この地球で冬子ぐれぇだ」
「ヘヘッ、できた」
わたしはグラウンドに大きく書かれた〝EXIT EXOCIST〟の文字を見る。
「さて、やろっか」
「待つまでもなかったな」
夜宵はグラウンドの高いポールにかけられたネットを野生動物のようにするすると登り、てっぺんから跳躍し、わたしの目の前に砂埃を立てて着地した。
あいかわらず、人間のしていい動きじゃない。
「招待状、届いた?」
「いいえ、検討はついていました」
「さっすが〜。ちょっとお話しよ」
「………」
夜宵は肯定しなかったけど、否定もしなかった。
「本来なら悪魔との会話はご法度とされています。悪魔は人を欺き、真実を騙り、己が享楽で人に道を誤らせます。それは悪魔憑きの人間も変わりません」
「しかし、終冬子。貴女は私が見たどんな悪魔憑きとも違います。興味がないと言えば、嘘になる」
「にゃはは。それはありがと。じゃあひとつだけ質問するね」
わたしは夜の空気を吸い込んで、夜宵に向きあった。
「夜宵は、何が欲しいの?」
「……?」
「夜宵は、何を手入れたくて、その人生を生きてるの?」
夜宵は大きな目をぱちくりさせて、質問の意味を考えているようだった。
その仕草が、またわたしの心をくすぐる。
「私は、すべての悪魔を祓うために生きています」
「それは、仕事でしょ?」
わたしが聞きたいのは、夜宵の話だ。
「悪魔を殺して、お金をもらって、そうやって生活してるんでしょ? そうじゃなくて、夜宵が、夜宵の人生で何をやりたいのかって話」
「……?」
夜宵はその言葉の意味が、いまいち理解できないようだった。
「もぅ、しょうがないなぁ」
わたしは大きく手を広げ、公園から見える夜空を抱きしめる。
「わたしは、この世界のぜんぶが欲しいの」
初夏の肌寒い風がわたしの髪をはためかせる。
「だから悪魔と契約した。わたしはこの世界のすべてを手に入れたいの」
夜宵はぽかんと口を開けて、わたしのことを眺めていた。
「夜宵はどう? 何のために生まれて、何をして生きるの? 何が欲しくて、何が好きなの? 胸が熱くなることは? ときめいた人は誰? このためなら死ねるってことはある? これをやってたら時間を忘れて何時間でもできるってことは? 何を食べたい? 何を飲みたい? 好きなブランドは? 誰みたいになりたい? あなたは誰? あなたを教えて」
わたしは両手を夜宵に差し出す。
「………私は」
珍しく夜宵の大きな瞳が揺らいだのを、わたしは見ていた。
「そのように育てられました」
「幼いころから、悪魔を殺すための訓練を受けていました。祓魔師である父の意向で、最高の祓魔師になるための努力をつづけました。そうして私は友愛クラブ随一の祓魔師となり、あなたの前に立っています」
「だから、私は魔を祓うために生まれたのです」
夜宵は静かな面持ちで、わたしの顔を見つめていた。
「うんうん。それでそれで?」
夜宵は言葉を返さなかった。
「あなたは何がやりたいの? 好きなものは何なの? 何を素敵だと思うの?」
「私は……魔を祓う存在」
「ちっがーう! わたしが聞きたいのはそんなことじゃなくてね」
「母が」
「ん?」
「母が、悪魔に殺されました」
今度はわたしが黙る番だった。
「だから、私は悪魔を祓わなければならないのです」
わたしの口元には自然と笑みが浮かんだ。
「お母さんは、どんな人だったの?」
「私が生まれてすぐに亡くなりました。写真でしか見たことがありません。優しい人だったと、聞いたことがあります」
夜宵の声は淡々として、新聞でも朗読しているようだった。
「それで、悪魔を殺してるんだ?」
「私は、そのために生まれました」
「………」
わたしは天を仰いだ。
夜の公園から見える空には、金星をはじめいくつかの明るい星が輝きを放っていた。
あぁ。
おまえ――
「つっまんねぇな!!!」
わたしはお腹の底から絞り出した声を夜宵にぶつけた。
夜宵は目を丸くして私を見ている。
「ウナギ! 銃!」
わたしは打ちあわせ通り、ウナギを機関銃に変身させる。
銃口を夜宵に向け、引金を引きしぼると、悪魔の血を凝縮した弾丸が乱れ飛んだ。
夜宵は瞬時に右足で地面を打ち抜き、左側面に飛んだ。
そのままわたしから距離を離すように公園の外周に近づいていく。
わたしは機関銃の掃射で夜宵の姿を追い、グラウンドに着弾の砂ぼこりがもうもうと立っていく。
「隙をついたと思ったのに、どんな反射神経してんの?」
「あれはそういうヤツだ。考えるだけムダだ」
夜宵は大きな滑り台の陰に身を隠した。
「このまま吹き飛ばすっ!!」
わたしは悪魔の血の塊をすべり台に乱射する。
すべり台を支える軸に傷がつき、階段の手すりが吹き飛び、スライダーに穴が空く。
この調子ならすべり台ごと吹き飛ばせるが、殺してしまいたくないのが悩ましいところだ。
「いっけぇー!!!」
すべり台が穴だらけになっていき、待つだけで勝てると考えてたわたしの視界の端で、夜宵が走ってくる。
すべり台の陰から、ほとんど倒れ込むように駆け出して来た夜宵に銃口を向ける。
夜宵は迫り来る銃弾を短剣でさばいていく。
銃弾の一発一発を刀身のわずかな動きで逸らしていた。
「はぁ? 人間の動きじゃなくね?」
「銃口だ。弾の軌道の始点には必ず銃口がある。あいつ銃口しか見てやがらねぇ」
「気ぃ狂ってんじゃん」
わたしは銃身を振って着弾地点を読まれないようにする。
夜宵は銃口の振りの動きに合わせて短剣を振り、すべての銃弾を切り伏せた。
「やっば!」
「来るぞ! 冬子!」
短剣を顔の前に構えた夜宵が、3メートルほどの距離まで迫ってくる。
「ウナギ、バズーカ!!」
夜宵の刀身が目前まで迫った瞬間――
ウナギの砲身が膨らんで巨大な血塊をグラウンドにぶつけた。
吹き飛んだ土で夜宵の姿が隠れる。
バズーカの反動で、グラウンドの中心から外周に設置されている鉄棒のあたりまで吹き飛んだ。
「それでいい! あいつの弱点は武器が短剣ってとこだ! 意地でも間あいに入れるな!」
わたしは鉄棒の陰に隠れ、もうもうと立ちのぼる土煙のなかに夜宵の影を探す。
地面はべっこりとえぐれて、穴のなかに黒い血だまりができていた。
「吹き飛んでないよね?」
「これで仕留められんなら、冬子と契約する必要もなかったろうよ」
土煙がだんだんと薄くなっていったけど……夜宵の姿は見えなかった。
「何か仕掛けてくるぞ」
わたしは警戒し、周囲をぐるりと見回してから、爆心地にまた視線を戻した。
「後ろだ!」
公園を囲う緑のネットが一閃され、夜宵が公園の外から飛び込んでくる。
ウナギがわたしの脚に血流を集め、わたしは鉄棒をくぐるように後ろ飛びで距離を取った。
けど。
「逃がしません」
飛び込んできた夜宵は鉄棒を左足で蹴り飛ばし、空中で進路を変えてわたしに追いすがってくる。
胸から飛び出してきたウナギが夜宵のお腹を食い破ろうと歯を向ける。
夜宵はわたしを裂こうとしていた剣を、肘を返すことで、標的を変えて振るった。
ウナギの存在しない目のあたりがスライスされる。
「痛っでえぇぇえぇぇぇええ!!」
ウナギを通して、祝福された短剣がもたらす激痛が伝わってくる。
話に聞いた通り、ウナギの頭の部分がまったく再生しない。
「グギ。削られた。これが夜宵の戦い方だ」
「夜明けまでに200のパーツ刻んで見せます」
夜宵が肩と水平に短剣を掲げる。
刀身が満月の光を受けて青白く輝いていた。
「はっ! あはは!」
「……?」
急に笑い出したわたしに夜宵は目を細める。
「かっこいいじゃん! なのに、なんでかなぁ――」
「なんで、そんなに空っぽなの?」
夜宵はその言葉の意味を考えるように、黒く透明な瞳にわたしを映す。
「夜宵は、きれいなグラスみたいだね」
「空っぽで、何でも注げて、機能しかない」
「飾れば美しいけど、そんなんじゃ――」
わたしは右手をウナギに変える。
「わたしには勝てないよ?」
夜宵は口を半開きにして呆けた表情でわたしを見る。
「……理解できかねます」
「いいよ、わたしが教えてあげる」
コンマ2秒。
わたしは悪魔の力で強化された脚力で夜宵の懐に入った。
右手を振るって夜宵の首を狙う。
この近さなら剣を振るうこともままならない。
そう考えたわたしの前で夜宵は自ら後ろに倒れ込み、斜め30度の角度でコマのように回転した。
短剣の刃先がわたしの右手に切れ目を入れる。
「痛っつうぅっ!」
もちろん傷口は塞がらない。
「どんな筋肉してたらそんな動きできるの?」
「これが、わたしの機能ですから」
夜宵は短剣を逆手に持ちかえ、グラウンドに屈み込む。
その姿勢から土埃をあげて一気に詰め寄ってくる。
「ウナギ!」
一瞬で伸びたウナギが鉄棒に噛みつき、わたしの跳躍もあいまって夜宵の射程から離脱する。
わたしが鉄棒の裏に回るのもつかの間、夜宵がロケットのように鉄棒に突っ込んでくる。
「ははっ! ねぇ夜宵、悪魔を殺してどうするの?」
鉄棒の下を夜宵の短剣が閃く。
「どうもしません。それが私の使命ですから」
わたしは少し背の高い鉄棒の上に飛び乗る。
「悪魔を殺して、絶滅させて、それで夜宵はどうするの?」
夜宵が鉄棒をくぐって、わたしより一段背の低い鉄棒の上に飛び乗る。
「私の役目は終わります。悪魔を絶滅させるために育てられたのが私ですから」
夜宵の一閃を避けるために上体を反らしたわたしは、鉄棒の上で不安定な姿勢になる。
「そっか。それが夜宵の生きる理由か」
その隙を見逃さず、夜宵は短剣をフェンシングのように構えた。
刺突。
わたしは左手を鉄棒の下から握り込み、自分の体を鉄棒の下に逃がした。
わたしの視線の上を夜宵の腕と短剣が伸びていく。
そのまま遠心力を利用して、沈み込んだ体を鉄棒の逆側から持ち上げ、夜宵の脇腹に蹴りを入れた。
「くっだらない!」
夜宵の体は真横に吹き飛んで、公園の外周を囲うネットに打ちつけられる。
想像よりずっと軽い体だった。
「いいよ。わたしが叩き潰してあげる」
「悪魔が、その存在理由も、信念も、人生も、努力も、技も、完膚なきまでに噛み砕いてあげる」
わたしは右手に生まれた歯をガチガチと鳴らした。
夜宵はおさげと両手をだらんと下げ、ネットの下から立ち上がった。
「いいでしょう」
夜宵の言葉はあいかわらず無感動だったけど、その声は地の底から響くようだった。
「望むところです。その思いあがり、消えてなくなるまで刻みます」
ほほに土をつけ、刺すような眼光を向ける夜宵に、わたしはゾクゾクする。
「いいじゃん。そんな顔もできるんだ」
夜宵が疾駆して二本の三つ編みがぱたぱたと揺れる。
わたしは夜宵とのあいだに鉄棒のポールを挟むようにして、短剣が振り抜けないような位置を取る。
夜宵は短剣を構えて鉄棒を飛び越え――なかった。
両足を浮かせながら左手を鉄棒の下に添え、その力で鉄棒の下にしゃがみ込み、鉄棒をくぐって襲ってくる。
フェイント。
わたしは上からの奇襲に構えていた。
「ウナギ!」
わたしの背中から太めのウナギが生えて勢いよく地面に突き刺さり、反動で宙に浮く。
夜宵の一振りが空を切った。
「残念!」
わたしは夜宵みたいな戦闘の訓練をしたことなどない。
けど、体の支配権をウナギに譲り、悪魔の血を使うことで流血と殺戮の大家と同じ動きができる。
わたしはまた夜宵とのあいだに鉄棒を挟んで着地する。
「ねぇ、楽しくない? こうやって頭を使って、体を動かして、ぎりぎりの命のやり取りするの」
「楽しくはないですね。仕掛けと読みあい、武器と技術、筋力と体力と精神力があり、優れた方が残る。それだけです」
「ははっ! わたしは楽しいよ!」
夜宵が5メートルくらいの距離を一歩で詰めてくる。
わたしは鉄棒のポールを回って、夜宵とのあいだに障害物が必ず入るように立ち回る。
夜宵はわたしを追ってポールをぐるぐると回る。
わたしもウナギの力を借りて鉄棒に飛び乗り、夜宵の剣閃を避け、鉄棒を膝裏で挟んでぐるりと回ってウナギを食らいつかせる。
夜宵は常に紙一重の距離を見切って攻撃を避け、反撃に転じる隙を狙う。
「ねぇ、わたしを殺そうとするのは、お母さんの復讐?」
「否です。私がそのように生まれ、そのように育てられたからです」
夜宵が体を捻ってポールの上に飛び乗り、遠心力で左から右に短剣を薙ぐ。
わたしは鉄棒の上に這いつくばってそれを避け、右手の歯で夜宵の脇腹を狙う。
夜宵はポールからポールに宙返りしてそれを避けた。
「わかった。夜宵は完成してるんだね。じゃあ、わたしが教えてあげる。この世界のことや、あなたのこと」
右手のウナギと胸のウナギと背中のウナギを横薙ぎにし、順番に襲いかからせる。
夜宵はポールに手をつき、頭を下にしたまま回転し、ウナギの群れを蹴散らした。
「あなたに教わることなどありせん」
「すごっ! なにそれ!?」
「カポエイラです」
夜宵は回転の力を活かしたまま、わたしに詰め寄ってきて、短剣を薙いでくる。
「よっと!」
わたしは強化した脚力で夜空に舞い上がって鉄棒から離れる。
グラウンドに着地し、ジャングルジムに走り出す。
夜宵はわたしを休ませるつもりがないからか、四足獣のように追ってきた。
「ねぇ夜宵、夜中に友だちと海の見える公園にくり出して、くだらない話をしながら、意味もなく歩き回るときの切なさを知ってる?」
わたしはジャングルジムを手を使わずに駆け上っていく。
「知りません」
夜宵は短剣を構えたままわたしの背を追う。
「朝までカラオケで歌ってて眠いんだか眠くないんだかよくわからないまま、まぶしい朝の光が目にしみて冷たい空気を肺に吸い込む感じとか?」
夜宵も手を使わずにひょいひょいとジャングルジムを駆け上がる。
「必要ありません」
「そ」
わたしはジャングルジムのてっぺんで手と足で体を支え、夜宵を待ち受ける。
「まっ暗な夜の海で寄せては返す波の音だけが響いて、体ごと持っていかれそうな怖さとか?」
夜宵はジャングルジムを駆け上がる勢いそのままに、わたしの首を一閃する。
「無意味です」
わたしはジャングルジムの中に落ちてそれを避けた。
「じゃあ」
ジャングルジムの鉄の棒を利用し、ハンモックで休むような体勢を取る。
「夏の夜に線香花火をやってだんだん大きくなる火の玉に夢中で、サンダル履いてるのも忘れて裸足の上に落ちて火傷したことは?」
夜宵は鉄の棒のつくる四角い穴から、短剣を下に向けてまっすぐ降りてくる。
「馬鹿みたいです」
わたしは鉄棒を蹴って、ジャングルジムの外に飛び出し、鉄棒を握ってまたジャングルジムの上に立つ。
「それなら、午後の昼下がりに土手の草の上で雲ひとつない空に飛ぶトンビを見ながら、大気を動かす風を顔に感じたことは?」
わたしはジャングルジムの外から中に向けて、3本のウナギを襲いかからせる。
夜宵は人間離れした筋肉の動きで、ジャングルジム内で回転しながら、ウナギの歯を短剣で受けきった。
「無駄です。そんな時間があるなら、剣を鍛えます」
「そう」
夜宵はジャングルジムの中から飛び出して、わたしよりも高く夜空に舞う。
まん丸い月を背にまっ黒の三つ編みが踊る。
ジャングルジムの上でふたつの影が乱れる。
月光をきらめかせる短剣が夜闇に青白い線を引く。
まるで月夜の舞踏会だ。
「わかった。わたしにはきっと、夜宵に教えてあげられることなんて何もないのね」
夜宵が短剣で突き、ウナギの歯で受け、もう一本のウナギの噛みつきを夜宵は身を捻って避ける。
「ようやく理解していただけましたか。私は悪魔を祓うために生まれ、生きています。それで完全であり、何ら不足することはありません」
夜宵が穴だらけの足場も気にせず、バレリーナのように回転しながら短剣を振る。
「ねぇ、わたしが何の話してたか、夜宵にはわかる?」
わたしは三本のウナギを蜘蛛の脚のように使ってジャングルジムの上を回る。
「いいえ。悪魔は人を唆すために言葉を使います。私にはひとつも響きませんでした」
「そっかぁ」
わたしは悪魔の血で脚の筋肉を膨らませ、夜空に飛び上がった。
夜宵はそれに追いすがるように、両足でジャングルジムを踏み込んで――
落ちた。
わたしは空の上からその光景を眺めていた。
「っ……!?」
夜宵の顔が驚愕に歪む。
ジャングルジムがぐにゃぐにゃとねじ曲がって、体勢を崩した夜宵の体に巻きついていく。
「知らなかった?」
わたしは両手を天高く掲げる。
「天ヶ裂公園に、ジャングルジムなんてないんだよ」
これはわたしが夜宵のために用意した、とっておきの罠。
悪魔の血でできたジャングルジムがまっ黒に染まり、夜宵の体を拘束した。
「悪魔っ……!」
わたしの両手から先はまっ黒く巨大な球体に変わる。
直径30メートルほどの球体は公園に大きな影を落とした。
球体の表面ががばりと裂けて大きな口が開く。
月を食べようするみたいな巨大な口。
それは、グラシャ=ラボラスのほんとの姿の一部。
怒りで鋭い眉を逆立てる夜宵を、わたしは見下ろした。
「さっきの、何か教えてあげるね」
わたしは全身の悪魔の血を腕の先に集中して、球体の質量を爆発的に上げていく。
「すべての悪魔を殺したあとに――夜宵に残るものだよ」
わたしは優しくほほ笑んで、グラシャ=ラボラスを叩きつけた。
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