第6話 水色のミュール

「ふあぁ~~~」

 わたしはあくびをしながら都会の街を歩いていた。

「あそこで寝ると体が痛いんだよね~」

「コンクリだからな」

 ウナギがわたしの胸のあたりから声を漏らす。

「なぁ、そろそろ友愛クラブのこと話とくぜ」

「んぁ? なんかちらほら言ってたね。ウィンドウショッピングのあとでもいい?」

「一生話せねぇだろうからいま話す」

「さっすがウナギ! わたしのことわかってるー!」

 わたしが自信満々に胸を叩くと、潰されたウナギが悲鳴をあげた。

「友愛クラブは悪魔あくま祓い《ばらい》を専門とする組織だ」

「ふーん」

「本拠地はローマ。友愛クラブはその日本支部にあたる」

「ふむふむ」

「友愛クラブは実力主義で、悪魔祓いの功績が高い順に序列が決められる」

「ほーん」

「友愛クラブの第一位は雨森あまもり夜宵やよい祓魔師ふつましの家系に生まれ、子どものころから悪魔祓いの技術を叩き込まれた神童だ。神が降りてきたような超人的な動きで悪魔を祓うことから、人呼んで《神託》のヤヨイ。オレを祓魔寸前まで追い込んだ張本人だ」

「まじ? ウナギ、ヤヨイってヤツにやられて首だけになってたんだ」

「あぁ。流血と殺戮の大家と呼ばれたオレが、手も足も出なかった。あいつはマジのバケモンだ。徹底的に、遭遇しないように立ち回るしかない」

「ほぅほぅ」

「あとは二位と三位もやべぇが、いまは東京にはいない。悪魔祓いの仕事で遠征中だ。だが、もうひとり気をつけたほうがいいヤツがいる」

「………」

「それが第四位のウィルバー・トーリー。元はイギリスのエクソシスト教会の人間だったが、日本にオレがいるせいで派遣されてきた腕利きだ。二位と三位が忙しいからか、ヤヨイの付き人をやってるみたいだが、こいつも厄介だ。十字架の鉄塊をぶん回すだけの脳筋なのに、めっぽう強い。金髪碧眼の美丈夫に見えるが、キャソックの下は筋肉の塊だ。その戦闘スタイルから《鉄槌》のウィルバーと呼ばれてる。こいつを見たら、絶対逃げろ」

「………」

「あとのヤツはオレならそうそう引けを取らねぇつもりだが……聞いてっか?」

「………ねぇ、ウナギ。この水色のミュールとオレンジのミュールどっちがいい?」

 わたしはショーウィンドウの中に飾られた靴を品定めしていた。

「ぜんぜん聞いちゃいねぇな」

「まぁでもウナギいるし、どっちも盗ればよきか」

「やめとけやめとけ。白昼の大通りでショーウィンドウから商品ぶっこ抜くのはさすがにやりすぎだ」

「えー……でもかわいいよ?」

「かわいいかかわいくないかの問題じゃねぇ。目立つか目立たないかだ」

「じゃあ店の中だったらいい?」

「……防犯タグがついてなけりゃな」

「そかそか! よし、ご来店〜」

 そのまま自動ドアから、橙色の照明が輝く店内に入っていく。

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