第12話 アユムのお昼休み
青い空。ベンチに腰掛け、隣でモグモグと焼きそばパンを頬張るアリサ。季節はいつの間にか移り変わり、蒸し暑い気候が続くようになっていた。アユムもアリサも冬用の制服ではなく、夏用のシャツを着るようになった。
それでもアユムたちのパーティは未だわずか1キルも出来ずに戦いに明け暮れていた。
「てか戦闘機って何!?反則でしょ!?」
「いまさらそんな事言ってもしょうがないでしょー。」
アリサが無気力な声で言った。ここ最近の『Gun's world online』は変わってしまった。
平気で戦闘用ヘリや戦闘機、戦闘獣が飛び回るようになってしまった。てか、戦闘獣ってなに?ガンズワールドじゃないの?
「なんか敵を倒した数が多いとそれに見合った報酬がもらえるらしいね〜、ちほちゃんが言ってた。」
ちほちゃんとはアリサの友達である。ゲームの成績は中の下ぐらい。まぁ、そんな事はどうでもいいんだけど。
「上のものはより上に、下のものはさらに下に。はぁ、オレらは一生弱小チームのままなのかねぇ。」
「そうなんかねー」
だめだ。いつもはこういう時に馬鹿にしながらも励ましてくれるアリサが今は完全に無気力ななってしまっている。きっと夏の暑さのせいだ。去年もこんな感じだった。それか多分、男には分からないあれだ。
「どうなんかねー。あ、どん兵衛くんだ。」
「ん?どこに。」
「ほら、あそこ。」
アリサが指を指した先を見ると、そこには確かにどん兵衛の姿があった。東校舎の二階。確かあそこは職員室の前の廊下だ。そこには長机と椅子が設置されている。そこで黙々と何かに取り組んでいる。大体あそこで何かに取り組んでいる生徒は小テストの追試だ。
「そいえば最近小テスト多いよね。」
「そうだなぁ。もう高2の夏だもんな。先生達も焦り始めたのかもな。」
「知ってる?Gun's world online の無気力プレーヤーが続出し始めてるって話。あれって一回やられちゃったらその日はもう参加できないじゃん?だから早々に自分からやられにいく人が出てきてるんだって。」
「へぇー」
生返事をするアユムをアリサは隣から覗き込む。
「なんだよ?」
「そう言う人を狙えば1キルも簡単なんじゃない?」
アユムはふんっと鼻を鳴らす。
「そんなんズルじゃん。」
「もぉ、ほんと子供だなぁ。そうでもしなきゃ私たちずっと1キルもできないままじゃん。」
「そうかもしれないけど、なんかそう言うのやなんだよなぁ。負けた感じがして。」
「ふーん。ま、好きにしたらいいけどさ。」
アリサはそう言ってそっぽを向いた。
「そのうちアユムのばかにみんな付き合ってくれなくなっちゃうかもよー」
アリサのその言葉は意外とアユムの心にぐさっときた。たしかに、ゲームで好成績を出せば良い大学、大企業への就職が約束される。だが、それはあくまで好成績を収めた者に限った話である。ではそれ以外の生徒はどうなるのか。
結局、このゲームが始まる前の生活に戻るだけじゃないだろうか。勉強しなければ、そりゃあいい大学には入れないだろう。そしたら将来就職だって厳しくなっていくだろう。
将来の事を考え始めると急に不安になった。このまま大して成績も上がらないゲームを続ける意味はあるのだろうか。
「アユム、なにぼーっとしてるの?教室戻るよー」
「あ、ごめん。」
アリサに声を掛けられてアユムは我に返る。
「なぁ、アリサはなんでオレにそんなに協力してくれるんだよ?」
先に行こうとするアリサの背中に向かってアユムは尋ねる。少し間を置いて、アリサは答える。
「さぁ、どーしてでしょう。」
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