第13話 アユムとどん兵衛
その日の事だった。どん兵衛が身投げした。
「どん兵衛くん!どうしてそんな事を!」
「くそぉ、どうしてだ!どん兵衛!」
もちろんゲームの中での話である。Gun's World onlineの世界には高い塔や建物が存在する。基本的にはそこから飛び降りても無傷で着地するだけである。高さが10メートル近くある鉄塔からだって飛び降りても無傷なのだから驚きである。
しかし時折エリア外へと繋がっている場所もある。
そういうところに飛び込むとプレーヤーは即ゲームオーバーである。
「いや、実を言うとさ。明日の小テストぼく勉強しないとまずいんだよね。ゲームやってる時間勿体無かったからさ。ごめんね。」
どん兵衛は翌朝アユムとアリサのところに謝りに来た。
アリサは焼きそばパンを頬張り、どん兵衛はうどんを啜った。
「一言ぐらい言ってくれれば良かったのに。」
アユムがどん兵衛に言う。
「ごめん、昨日はちょっと言い出しづらかったんだ。みんな頑張ってるし」
「そか、小テストはなんとかなったのか?」
「‥‥たぶん。」
どん兵衛は自信なさげに俯きながら言った。
「どん兵衛君、これからも身投げするの⁇」
アリサが縁起でもない事を言う。
「お前、もうちょっと言い方あっただろ。」
「だってさ。忙しいのに無理に参加するってのも変な話じゃん?そりゃあガチで好成績目指してる人は別かもしれないけどさ。私達、弱小チームだよ?」
「それは‥」
「そうだよね、これ以上やる意味ってあるのかなって」
アリサに同調するようにどん兵衛は言った。
長い沈黙が続く。
「ちょっと考える‥」
そう言うとアユムは立ち上がり、その場を後にした。
そのうちアユムのばかにみんな付き合ってくれなくなっちゃうかもよー
アリサの言った通りだった。やっぱり自分のやってきた事なんてただの自己満足でしかなかった。
なんとしても1キルを。そうやって頑張ってきたけど、でも結局なんの成果も出せていないじゃないか。
物思いに耽りながら教室へと続く廊下を歩いていると、アユムは人にぶつかりそうになった。
「あ、すみません。」
「西山君、随分と深い考え事をしていたみたいだね。君の全く振るわない成績の事でも考えていたのかい。」
アユムは目の前に立ちはだかったその身長の高い男を見上げた。
その男はこちらを見下しながら、右手で掛けていた眼鏡をくいっとした。
「君に重大な話がある。」
「なんすか?」
アユムは自分の担任の先生を睨みつけて尋ねる。
クソ眼鏡!いつもいつも人を見下したようにしやがって!
「君のパーティは未だに1キルも出来ていないみたいだな?」
「そうですけど、なにか?」
アユムは反抗的な態度のまま言う。
「もしこのまま1キルも達成出来ないままなのであれば、参加意思なしと見做してゲームから君のパーティを外す事にする。」
なんだって!?
「いやいや、ちょっと待って下さいよ!?参加意思はちゃんとあります!」
食い下がるアユムを先生は一瞥し、そして言った。
「君は勘違いしている。」
「は?勘違い?」
「そうだ。」
先生は眼鏡をくいっとする。
「これはゲームだ。だが、ゲームといえど成績の悪い者に参加意思があるとは認められない。それは何事においてもだ。実社会でもそれは変わらない。頑張っています。意欲はあります。それが通用するのはせいぜい中学生までだ。君達は始まってしばらく経つにも関わらず、未だになんの成績も残せていない。それは君達に、君に参加意思がないものだと他者は受け取る。もしこれから一週間の間に君達のパーティが1キルもできないのであれば、君達から参加資格を取り上げる。」
先生はそこまで言うと再び眼鏡をくいっとしてアユムの横を歩き去っていった。
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