第10話 アユムの恋
帰りの電車を待つ駅のホームでの事だった。委員会の仕事で遅くなったアユムはいつもより少し遅い電車を待っていた。スマホに目を落とし、FPS必勝法について調べている。
困った事に『Gun's World online』なるゲームはまだネット上でも知られていなかった。
ほんとにまだ世に出ていないゲームなのか?
じゃあオレ達はまだ世に出てないゲームのデモンストレーションに付き合わされているとか?
「あの、先輩?」
その声に胸がどきりとする。
隣を見るとそこには小柄で長い茶髪の女の子が立っていた。レナはいつもと違って、ピンク色のピンドメをして、額が見えるようにしていた。
「レ、レナ?えっと、いま帰り?」
「はい!先輩もですか?」
「お、おう。珍しいないつも時間合わないのに」
「はい、私、いつもは部活がありますから。先輩こそ今日は遅いんですね?」
「ああ、オレは、委員会があって。」
委員会ナイスぅぅ。美化委員会として校内に花植えて正解だったぜ!
「それは、お疲れ様です。」
レナがペコリと少し頭を下げる。かわいい。
「レナも大変だな。部活もやってるんだ?」
「はい。やってます。」
「何部なの?」
「陸上部です。」
「‥‥。」
「‥‥。」
「すげえなぁ。」
「すごい、ですか?私が?」
「うん、だって学校生活もして、部活も運動部で、夜はFPS毎日参加して、すごいなぁと思って」
レナはくすっと笑う。
「全然、そんな事ないですよ?私なんかより、先輩の方がすごいです。」
「え?オレ?オレの何がすごいの?」
嬉しいと言うより驚きが勝った。
ほんとにオレの何がすごいの?ロック○ンだし、空気砲だし、ヘタレだし、童貞だし、童貞だし、童貞だよ??
「だっていつも私達のために一生懸命になってくれるじゃないですか!」
「え?オレが?」
「はい!」
考えたこともなかった。自分がパーティのために一生懸命になっていたなんて。
「でも、まだ一回だって敵を倒せた事がないじゃないか。」
「そんなの関係ないですよ。先輩がいなかったら、私こんな積極的にゲームに参加してないですもん。」
レナは少し考えるようにして言う。
「うん。絶対そうだと思います。もともと暴力的な事は苦手で。このゲームも絶対参加ってなった時、うわぁどうしようってなって‥。でもパーティのみんなが優しくて面白くて、それで一生懸命だから、私ももっと参加したいってなったんです。」
レナがあまりに真剣な顔で言うので、アユムは思わず顔を背けた。ほおが赤く染まる。
「そうか。」
「そうです!」
ホームにアナウンスが流れて、やがて電車が来た。
「‥‥‥」
「‥‥‥」
開きますドアにご注意下さい。アナウンスの後、電車のドアが開いて中から人がちらほらと降りる。
「‥‥‥」
「‥‥‥」
「あのさ、レナ?」
「はい。」
レナはこっちを向く。
「一緒に帰ろか」
「え、はい、一緒の電車なので、もちろんです!」
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