第9話 アユムのキャノン砲

「あのぉ、すみません。ぼくも同じパーティだと思うんですけどー」


 近くから太った声がする。声がする方を見るとそこには恰幅が良いアバターが立っていた。アサルトライフルAK47を装備している。


「お!君はもしかしてどん兵衛くんじゃないか!?」


アリサが声を上げる。


「はぁ」


「どん兵衛くん?」


アユムが尋ねる。


「そう!2年D組のどん兵衛くん!名前が土井ショウヘイで、昼休みのご飯いつもどん兵衛を食べてるから、あだ名がどん兵衛くん!」


「何だそりゃ。勝手にそんなあだ名つけるの良くないだろ。」


「あだ名、どん兵衛です。中学の時から。」


「そうなの!?」


「はい。」


「アリサも焼きそばガールとかに名前変えた方がいいんじゃね?」


「誰が焼きそばガールじゃ!」


 アリサがアユムをシバく。そうしてオレ達4人のパーティが組まれた。そこまでは良かったが、アユム達のパーティにはアユム以外FPS経験者が1人もいなかった。


「えふぴーえすってなんぞ?」


「人をこの銃で撃つんですか?私、暴力的な事はちょっと‥」


「お腹減った」


3人の反応にアユムはガックリと肩を落とす。


「しょうがない。ここは、オレが一つFPSがなんたるかを教えてやろうじゃないか!」


 アユムは自分の右腕と合体したキャノン砲を左手で押さえ、3人に掲げ見せるようにして言った。


「よ!流石は我らがリーダー!」


アリサが口に手を添えて言う。


「ところでこのゲームの世界って銃で人を撃っても撃たれた人は痛みとか感じないんだよな。」


「うん。そうやって先生は言ってたね。」


「じゃ、アリサ試しにオレを撃ってみてくれよ。それで何も感じな‥‥」


「了解。」


 アリサはすかさずMK46をこちらへ向けそれを連射する。


「ちょ、ま‥‥、」


 たしかに痛みは感じないが衝撃だけはぶつかってくる。アリサは表情一つ変えずにこちらに向かって連射する。


「え?ちょ、おま‥?」


 アリサはひたすらこちらに向かって連射する。カチャ、カチャとMK46の弾が切れた音がした。


「弾なくなっちゃった。」


 アリサはてへっと右手をぐーにして頭を軽くコツンと叩く。


「でもほんとに撃たれてもへーきそうだね。」


「お前‥?なんかオレに恨みでもあったの?」


アユムは青くなって言った。この女やべぇ。


「まぁまぁ、無事だったから良かったじゃん。ところでこれどうやって弾入れ直すの?」


「貸してみ。これをこーやってだな。」


 そんな二人の様子を、レナとどん兵衛は唖然として見ていた。この人たちやばいかも。

その時だった。


「きゃっ」


レナが声を上げる。アユムもたしかに衝撃を感じていた。どこかから銃撃されている。


「みんな!伏せて!」


 アユムは大声で言った。どこだ?敵はどこにいる?アユムは周りを見回す。自分より高い位置に敵がいた時がまずい。標高差がある場合、低い位置にいる方が圧倒的に不利だ。ガンガン!アユムは再び銃弾が当たる音を聞いた。4人が立っているところより少し離れた鉄パイプに被弾した。


 すかさず銃弾が放たれた方角を目で追う。

いた!距離は50メートルぐらい。赤いコンテナの裏に隠れている。


 アユムは走り出した。どのぐらい撃たれたら自分が倒れるのかは分からない。

だが、敵を倒すには距離を縮めなければダメだ!


 敵が再びコンテナから姿を現し、銃口をこちらに向ける。そして銃弾を放った。アユムはその瞬間、体を上向きにしてスライディングするような形で銃弾を交わした。そして上体を瞬時に起こし、敵に向かって飛び上がった。


 敵までの距離はもう10メートルもない。アユムは右手と一体化したキャノン砲を敵に向ける。


「いっけぇ!」


 その時アユムは自分のキャノン砲にゲージのようなものが付いている事に初めて気づいた。

そのゲージが指し示しているのは、69%!?


バフゥ!


 右手のキャノン砲から勢いよく空気の塊が飛び出す。敵アバターの髪がファサァっと舞い上がる。


「あ、えっと。」


敵アバターと目が合う。


「髪、サラッサラだね!トリートメント何使ってるの?」


ダァン!銃声が響く。アユム、初陣、死亡。


「だっさ!オレだっさ!」


 アユムは初陣の時の自分を思い出して青空に向かって叫んだ。


「いやいや、あの時のアユムが1番イケてたって!

空気砲だったけど。」


アリサはププっと笑いながら言う。


「くっそー、今に見てろよ!?オレだってパーティの役にたってやるんだからな!?てかパーティで最初の1キルを出すのはオレだからな!?」


「はいはい。頑張ってね〜。」


アリサはテキトーに返事をして立ち上がると、


「戻るよ〜」と言って教室へ歩き出した。

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