第8話 アユムの初陣

青い空の下。ベンチに座って焼きそばパンを頬張るアリサ。その隣で肩を落とすアユム。


「まぁ何というか、誠に遺憾だったねアユム君。」


「うるせえよ。」


アリサがオレンジ色のパックにストローをぶっ刺す。


「今日はフルーツオレなんだ。」


「あ、そう。」


「てか、アユムどさくさに紛れて私の事ノーコンって言ったよね?」


「ん?」


「言ったよね?」


アリサがこちらに顔を向けて迫る。


「私が頑張って黒山さんに攻撃してる時、アユム君は何してたのかな?アユム君、攻撃出来ないんだよね?そんな役立たずのアユム君が私に向かってノーコンって言ったよね?」


「分かったから!謝るから。ごめんなアリサ。」


耐えきれずアユムが顔を上げて答える。


「全く。今度焼きそばパン奢りね。ほんとアユムの装備役に立たんよね。」


アリサがふんと顔を背けて言う。


「そこまで言わんでいいやん。別に役に立たないわけじゃねーし。」


アユムが言う。


そう、オレの装備の使い勝手は恐ろしく悪い。

それはオレ達4人の初陣の日の事だった。

オレが『Gun's World online』の世界に驚嘆していると、


「何これぇ、やばぁ」


隣から聞き慣れた声。


「アリサ?」


そこには普段とは似ても似つかないような姿のアリサの姿があった。

だけど与えられたアバターはどことなく現実世界の姿を残していた。


「え?アユム。ちょ、待って。何その格好?

 ロッ○マンじゃーん!!」


そう言ってフル装備のアリサは爆笑した。


「誰が○ックマンじゃ!」


アユムは吠える。


「あの‥‥」


不意に聞こえた可愛らしい声に、アユムとアリサは振り向く。


「あの、私、パーティメンバーだと思うんですけど、すみません。状況がよく分からなくて‥」


その時、アユムは雷に打たれたような気持ちになった。この子は、もしかして!?


「君、名前は?」


アユムは少し食い気味になって尋ねる。


「え、えっと篠宮レナって言います。」


「そっか!篠宮さんって言うのかぁ!オレは西山アユム!よろしくね!困った事あったらなんでも聞いて!」


「え?あ、はい?」


「ちょっとアユム?アユムがこの子困らせちゃってるじゃない。」


アリサが2人の間に割って入る。


「私、長野原アリサ。ちょっと私も状況よく分からないんだけど、よろしくね!」


「よろしくお願いします。」


レナがペコリとお辞儀をする。

それからアリサはアユムに近寄りヒソヒソ声で尋ねる。


「アユムの知り合い?」 


「え、いや、知り合いじゃないけど?」


「だって今見るからに様子変だったじゃない?」


「え?別に、変じゃないけど?」


 アユムは顔を逸らしながら言った。アユムは本当にレナの事を知らなかった。というか知ってはいたがこの時初めて言葉を交わした。そう、アユムが電車で通学している時、レナはいつも近くにいた。同じ駅、同じ時間レナは席に座る事なく電車の乗車口の近くで音楽を聴いているか、本を読んでいた。

アユムはレナが座らないからいつも反対側の乗車口の近くで立っていた。

いつか声を掛けたいなぁ、そんな風に思いながら。

だから今朝、同じ制服の彼女が電車に乗り込んで来た時は驚嘆した。え?あの子が?これから3年間オレと同じ学校?同じ通学路?声を掛けるべきじゃないか?だって多分高校生活不安だよな。オレ同じ高校の先輩だよ?声かけても不自然じゃないよな?


「あ!レナ!やっほー」


その時、レナの友達と見られる女の子が彼女に声を掛ける。


「あ、カスミ!同じ高校に入れて良かった!」


「ね!おんなじ学校に通うなんて小学校ぶりだね!」


なに?中学は別々で、高校で久しぶりの再会?これは声かけれねぇ!

そんな憧れの子と同じパーティ!?そんな事ある!?


「まじで何もないけど?」


アユムはアリサに凛々しい顔をして言った。


「ふぅーん。怪しい。」


アリサは訝しんで言う。

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