第23話 討伐隊 その4
他のメンバーからの承認を受け、臨時とは言え俺もチーム・パルサーに加入することが正式に決まった。
誰かと組んで仕事をするなんて久しぶりだから、ちょっとだけ戸惑いがある。
とにかく他のメンバーに迷惑をかけないようにしよう。
出発まであまり時間もないので、俺は診療所を休みにして準備に充てた。
役に立つポーターも連れていきたかったが、優秀な人材はすでに他のチームにとられてしまっていた。
仕方がないので、俺はまたウレタロを雇った。
もうこれは腐れ縁というやつなのかもしれない。
要領の悪い男だが、荷物を運んでもらうだけなら大丈夫だろう。
もし今回の遠征が成功したら、特別にゴブリンの目を奴の白内障の左目に移植してやってもいい、そんなことも考えた。
討伐遠征に必要なものを買うために商店街へとやってきた。
ここは賞金稼ぎ御用達の通りで、ここへ来れば一通りのものは何でもそろう。
戦闘では医療用のメスと注射器を使うのが俺のやり方だ。
いざというときはワーウルフの爪も使うが、アーリンが一緒なのであまり見せたくない。
今日は予備のナイフを買いに来た。
刀身が長めの山刀を購入予定だ。
森の奥に分け入るためには必携の品である。
武器屋や食料品店を回り、予定したものはほぼ購入できた。
ずいぶんと歩き回ったので腹が減ってきている。
一つ向こうには飯屋が並ぶ通りがあるので、久しぶりにそこで何か食べようかと、俺はぶらぶらと歩きだした。
このあたりに来るのは賞金稼ぎをやっていたとき以来だ。
場所柄に似つかわしく、安くてたっぷりと食わせる店が多い。
昔のように体力を使わなくなったから、それほどたくさん食べるわけじゃないけど、どうせなら美味いもので空腹を満たしたかった。
俺は自慢の鼻を活かして美味そうな店を探っていく。
鼻を持ち上げて周囲の匂いを嗅いでいると、よく知っている匂いが通りの奥から香ってきた。
あれ?
これはアーリンの匂いじゃないか。
メルトアの匂いもするところを見ると二人で遠征の買い物をしにきたのだろう。
せっかくだからあいさつくらいしておくとするか。
二人の匂いを辿って歩いていくと、一軒の料理屋が目の前に現れた。
窓のそばの席にアーリンとメルトアが座っているのが見える。
外から声をかけようと思ったのだが、すんでのところで俺は身を隠した。
どうしてかと言えば、二人の会話の中に俺の名前が出てきたからだ。
「最近クラウスさんとはどうよ、なにか進展とかはないの?」
「うん……。この前ちょっとね……」
アーリンの表情にメルトアは心配そうになる。
「え、喧嘩でもしたの?」
「ちがうよ。そうじゃなくて、二人にとって大切なことがあったんだ……」
「もしかして、キスでもした?」
「それはまだ」
アーリンは照れたように笑う。
「なによー、いいかげん、クラウスさんもはっきりすればいいのに」
「たぶん、それができなかったのは私のせいなんだ」
「なに、アンタが拒んだの?」
「うーん、そうじゃないんだけどね……。結果的にそう取られてしまっていたのかも……」
メルトアは腕を組んで説教モードに入る。
「アンタねえ、少しは受け入れる準備をしないと、男は逃げていっちゃうよ」
「べ、別に私は……」
「安売りは感心しないけど、焦らしすぎるのもどうかと思うわ」
アーリンはテーブルの上の水に口をつけた。
「焦らしているつもりなんかないよ。それに、今は前よりも分かり合えてるって感じだから」
「ふーん……」
「詳しくは言えないけど、この前ね、クラウスさんの大事な部分を見せてもらったんだ」
「えっ……」
アーリン、それは誤解を生む発言だぞ。
「それって、キスを通り越して?」
「そうね、もっとクラウスさんの核心に触れたって感じだよ」
「触ったんだ!」
「あっ、そうじゃない。まだ触ってはいないの」
「そ、そうなんだ。あー、びっくりした」
「見せてもらっただけだから」
まあ、尻尾は見せたな……。
「ア、アーリンの割には頑張っているのね……」
「うん、それでね、最近の私はそれのことばっかり考えているの」
「それって、クラウスさんの体の一部?」
「うん……。すごく愛おしくて、触ってみたくてしかたがないの……。変かな?」
「へ、変ではないと思うよ。まあ、それのことばっかりは普通じゃないかもしれないけど、一度触ったら落ち着くんじゃない……?」
メルトアもすごい誤解をしているな。
そういえば、最近のアーリンはやたらと俺の尻の辺りを見ているような気がしていたけど、つまり尻尾に触ってみたかったんだな。
なんとなく話しかけづらくて、俺はそっとその場を離れた。
食欲も失せてしまったので、昼飯はジョージのところででも食べるとしよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます