10・Several Cheerful Dwarfs

 さっきの静かなコビトたちの村を出発してから、ずっと無言で歩き続けています。これは今までもそうですが、むしろこの状態でおしゃべりをする方が疲れるというか、無駄な労力を使ってしまう気がして、お互いに黙ったままそろりそろりと(無駄に)足音を忍ばせて歩き続けます。


 一つ目の村を見つけた時よりも、そこからさっきの静かな村を見つけた時よりも、それよりもうすでに歩いている気がします。例によって距離は大したことないと思うのですが、時間だと5分以上歩いています。それでも距離的には40メートルもいかないと思います。何度も言いますが、手元しか照らせないランプの明かりだけが頼りなので、ゆっくりゆっくり手探りでしか進めないのです。


 そうして進んでいると、紀久君が立ち止まりました。


 「ようやく着きました。ここも隅になってますね。」


 そう言うと、紀久君は手元のランプで前方を映してくれました。確かに、そこでは今伝って来た壁と直交するような壁があり、隅になっています。3つの隅がそれぞれ直交していたということは、この部屋は長方形だと言えそうです(現実世界の基準にしたがうならの話ですが)。


 「ちょっとさっきまでよりは長かったわね……。じゃあ、ここにもコビトさんたちがいるのかしら?」


 私は、もうコビトがそこにいるという前提でしゃがみました。


 そこには、やはりコビトがいました。コビトたちがいました。7,8人の子供から老人までさまざまなコビトたちがです。でも、今までと違うのは、コビトたちがみんな女性だということです。そして、みんな晴音が着ているような軽そうなワンピース、オレンジ色の可愛いワンピースを着ています。


 そして、何よりもみんな陽気な感じです。所々で輪になったりペアになったりして、フラダンスのようなゆったりとした踊りを踊っています。


 「これは……ちょっとかわいいですね。見てて癒されます。」


 「そうね……今までの村とは違って、なんとなくだけどいい雰囲気がするわ。」


 私も紀久君も、そのほのぼのとした様子に目を奪われてしまいます。今までの恐怖が強かった分、急にそれらが融解して溢れだしたような感覚です。


 そうしてまじまじと彼女らを見ていると、そのうちのひとりが私たちに気付きました。


 「ハァイ、コンニチハ!」


 敵意は全く無いようです。ニコニコの笑顔で、体を揺らしながらそう挨拶をしてくれました。その声で他の人たちも私たちに気付いたようで、みんな元気よく挨拶をしてくれます。


 今までの村のコビトたちの反応とは違い過ぎて逆に少しばかり戸惑いましたが、こんなにフレンドリーだと話はしやすそうです。


 「ええ、こんにちは。私たち、この”終わり”に沿って進んできたの。」


 まずは軽く挨拶です。


 「ソウナノネ!ズイブント トオクカラ ゴクロウサマ!!」

 「ジャア、スコシ ツカレテル ンジャナイ? イッショニ オドッテク? タノシイ ワヨ!」


 みなさんとても元気で、しかも踊るのが大好きなようです。「疲れたらダンスをする」という考え方は、私にはよく分かりません。彼女らは、こうして会話をしている間にもパートナーを変え、グループを変え、フォーメーションを組み替えながらダンスを続けています。


 でも、今私たちは踊っている場合ではありません。この館から、そのためにはまずこの0階から脱出しないといけないのです。


 「踊るのもいいんだけど、この世界から飛び出す方法とか知らないかしら?私たち、ちょっと事情があってここから違う世界に飛び出していかなきゃいけなくて。」


 「コノセカイ カラトビダス!? チョット ソレハ ワカラナイワネエ。」

 「デモ、アレノコトジャナイ? ホラ、セカイノ チュウシンニハ カミ ガツクッタ "ハコ" ガアルッテイウ ハナシ!」

 「アー、タシカニ。デモソレ シンワ デショ!?」


 どうやら興味深い単語がでてきました。神、神話、箱とは一体何のことなのでしょう。これには紀久君も噛みつきます。


 「すみません。その”箱”とか神話について教えてくれませんか?」


 「コノセカイノ チュウシンニハ ホカノセカイニ ツナガル、カミ ガツクッタ "ハコ" ガアルッテイウ ハナシガアルンデスヨ。」

 「ソウソウ、ソレニ ノレバドコカ ベツノセカイニ イケル ッテイウ ハナシ デスヨ。」


 これには、ふたりとも顔を見合わせてしまいます。ここまできて、ようやく手がかりらしい手がかりをつかたような気がします。


 「ありがとう!じゃあ、そこに行ってみますね。みなさんもお元気で!」


 「アラソウ?モウ イッチャウノネ。オゲンキデー。」]

 「スコシ オドッテイケバ? タノシイ ノニ。サヨナラー。」


 最後の最後までとてもいい雰囲気のコビトたちです。私と紀久君は彼女らに手を振って別れを告げると、立ち上がりました。弱弱しいランプの光では、立ち上がってしまえばもう足元は全くの暗闇です。


 「”世界の中心”っていってましたけど、それってつまりこの部屋の中心ってことであってますよね……?」


 とりあえず、情報の整理です。紀久君に聞いてみます。


 「そうですね。彼ら彼女らにとってはこの部屋が”世界”なので、そうなるとこの部屋の中心が世界の中心ってことになりますね。」


 「で、そこに”神が創った異世界に行ける箱がある。」


 「はい。そう言ってましたね。」


 世界の中心に神の創造物。なんだか、世界樹・ユグドラシルのことが連想されます。でも、この場合はそこにあるのは箱です。神の創った箱――。


 「あ!今思いついたんですけど、もしかしてその”箱”って私たちが乗ってきたエレベーターじゃないですか?『他の世界に行ける』っていうのも、他の階に行けるってことですし、そんな気がします。」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る