8・Several Angry Dwarfs

 彼は突然こちらをふり返ってそう言ってきたものですから、またもや驚きで体を後ろにのけぞらせてしまい、バランスを崩しそうになってしまいました。手に持った灯油ランプを落としたり振り回したりしなかったのは、褒められていいことでしょう。


 「ホントダ!シラナイヤツガイル!」

 「キョジンダ!キョジンダ!ナンナンダオマエラ!」

 「ヤツラノ ナカマカ!」


 慌てふためく私たちに、コビトたちは次々と私たちに気が付き、やんややんや言ってきます。


 「ち、ちがうの!いや、違くないけど、初めまして!」


 私は、とりあえず挨拶をしました。良く分からないことを言っているのは自分でも分かりましたが、理路整然としたことを話す余裕は、私にも紀久君にさえもありませんでした。


 「私たちは、ここに迷い込んできちゃって……。ここがどこかも分からないの。」


 「ココガドコカ ワカラナイ!?ココハ オレタチノ ムラ ダヨ!」

 「ソウダソウダ!ソレナノニ アイツラ カッテニ ハイリコンデキヤガッテ!ホントニ ハラダタシイ!」


 何を言っているのかはっきりとは分かりませんが、ここは彼らの村、ということのようです。しかし、村と言っても建物やなにか暮らしが伺えるものはなにも無く、ただ単にここは部屋の隅の床でしかありません。


 それに、この”村”は誰かに侵入された後のようで、皆怒り狂っています。誰かに侵入されたということは、彼ら以外にもこの0階に住民がいるのでしょうか。それとも、この館全体にもっと別の種族がいるのでしょうか。夢の中ですから、なにがあってもおかしくはありません。


 私と紀久君は、顔を見合わせます。彼も何か思うところがあるようで、コビトたちに話しかけます。


 「突然おじゃましてしまってすみませんでした。僕たちはこの村に攻め入ろうなどとは考えていないんです。本当に、迷ってしまっただけなんです。」


 コビトたちは彼の言葉を聞き入れず、飛び跳ねながら「ナニヲイッテルンダ!」「ホントウニ テキジャ ナイノカ!?」など、適当な反応を叫び散らかしています。紀久君は、そんな彼らに困った顔をしながらも、話しかけ続けます。


 「ここは、どこなんでしょう?ここから出るための方法を知りませんか?この館じゃなくて、この階から出る方法でも構わないのですが……。僕たち、本当になにも知らないんです。」


 「オマエ、ホントウニ ナニヲ イッテイルンダ!」

 「デグチッテ ナンダ!ココカ ラデテイク ホウホウハ、ココカラ タチサル コトダケダヨ!」

 「ソウダソウダ、ホカノ ムラニ イッテ シマエ!」

 「ホントウニ ハラダタシイヤツラダ!」


 何か、彼らとは話がかみ合わない気がします。話が合わないというか、話の前提が違う気がしてきました。彼らは、ここが世界の一部だとは考えていなさそうです。彼らにとっては、この暗闇が世界そのもの、といった雰囲気を感じます。ならば、唯一この階のヒントになるのは「他の村」がどこにあるのかということでしょう。


 「ごめんなさい。その”他の村”っていうのはどこにあるのかしら。そこに行ってみたいなと思って。」


 「ホカノ ムラ!?アア、アイツラノ トコロカ!」

 「ソレナラ、コノ "オワリ" ニソッテ アルケバ タドリツクサ!」

 「ソウダソウダ、ホカノ ムラニ ハヤク イッテシマエ!」


 コビトたちの怒りは冷める様子がなく、なんならだんだんとヒートアップしてきているような気さえします。


 「紀久君、”終わり”に沿ってって言ってますけど、何のことを言っているんですかね?」


 「うーん。”終わり”ですよね……。何が”終わっている”のでしょうか……。」


 ”終わり”が何なのか分かれば、それにそって「他の村」に行けそうですから、これは大事な問題です。コビトたちは相変わらずやんややんや言っていますが、それに気をとられているわけにはいきません。


 「”終わり”……。”終わり”はちょっと分からないけど、私、彼らにとってはこの部屋自体が世界そのものみたいな印象を受けるんですよ……。これってなにかヒントにならないですかね?」


 少しでも思っていることを紀久君に伝えます。すると、今まで難しい顔で悩んでいた紀久君が、パッと目を見開き、その眼鏡の奥で目を光らせました。


 「それですよ!彼らにとってはこの部屋が世界そのもの、だとしたら、この壁が”世界の終わり”なんですよ!」


 その説明に思わず、私は感嘆をもらします。


 「確かに!ということは、”終わり”に沿って進むということは――」


 「そう、この壁に向かって進んでいけということだと思います!」


 やりました。これで、「他の村」に辿り着くすべを見つけました。それがどのくらいの距離にあるのかは分かりませんが、大きなヒントです。


 「ありがとうコビトさん、じゃあ、その”他の村”に行ってくるわ!」


 私はそうコビトたちに告げると、スッと立ち上がりました。耳を澄ませば足元からは未だに「オイ、トツゼンナンナンダ!」「イイジャナイカ、ドッカニイッテシマエ!」「イキナリ キテ イキナリ サルナンテ ホントニ ハラダタシイ ヤツラダ!」などといろいろな声が聞こえますが、まあ、いいでしょう。”他の村”に進んで何か他の情報を得て、この0階から脱出する方が重要です。


 紀久君も立ち上がって、再び壁づたいに進んでいきます。その「他の村」とやらは一体どこまで進めばあるのでしょうか。分かりませんが、とりあえずは進むしかないでしょう。

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