第5話 風燕の交わり
◆
「なあ、
オレは自分を指差し、後ろに控える侍女を振り返った。
皇帝との謁見の後、大いに盛り上がっている男たちに付いていけずボケッとしていたら、「別室で少々お待ちください」と茶菓子とお茶が用意されたこの部屋に通された。
用意してくれるのなら酒のほうがありがてぇんだが……と思いつつ、そこにいたのは侍女たちだったので、
「は、はい。
「おう。それで? どんな女だ」
「ええ……その……少々個性的なお方です」
「個性的?」
「はい」
オレがそう聞き返すと、女は少々困ったような、しかし嫌な気持ちは感じない笑みをこぼした。
うーん。なんだろう? その困り笑顔を見ていたら、なんとなく『
オレは以前に会ったことなどない女だが、何故かこの侍女を傍に置くのが当然のような気がするし、甘えたくなるような、親しみを感じるようなその笑顔にも
もう一人の、まだ少女らしいクリッとした目の侍女『
これは多分、この女――飛燕が僅かに遺した記憶なのだろうな。
体に染み込んだ記憶なのか、オレと同化でもしてしまったのか……。その辺は分からんが。
「飛燕さまは序列では第三位の
「おお」
それは……ちょっと変わった国じゃねぇか? オレは後宮になど詳しくはないが、武芸を嗜む女なんてあの『
「ですが現在の後宮は、武芸よりも美しさや教養が競われております。古来からの価値観のなごりは女性兵士がいることくらいです」
「ふむう」
「しかし飛燕さまは……なんと申しますかとっても
話しを聞くに、飛燕はどうやら伝説の『燕人』に憧れていて、朝から晩まで走ったり筋肉を苛め抜いたり、食事にもこだわり、寝る間も惜しんでとにかく体力! 筋肉! 武芸! 燕人に近付きたい! 強い女になりたい! という女だったようだ。
「随分と面白ぇ女だな? それじゃ得意な得物はやっぱり矛か?」
「ああ、いえ、それが……。飛燕さまは武芸はからっきしで……」
「は?」
「鍛錬には励むのですが、勘が悪いのかそもそも向いていないのか……体力と筋力は素晴らしいのですが、武芸となると見習いの子供にも負ける有様で」
「ああ」
いる。そういう奴はたまーにいる。
「――そして飛燕さまはご無理をなさったのです」
姉のような
「神仙へ願掛けの祈りを捧げるため、無茶な
「ああ、もしかしてオレが目覚めたと思ったあの時は、
侍女二人が涙目で頷く。
――そうだったか。
自分のことで手一杯ですっかり忘れていたが、こいつらにしてみりゃ、仕えていた主が突然オレに成り代わったわけだ。
オレはチラッと横目で侍女たちを窺い、内心で溜息を吐いた。
ああ~~~~オレは馬鹿だ! いや十分知っていたが、やっぱり馬鹿だった! オレの娘たちと同じような、こんな年若い女たちを泣かせてやることもせず図々しく世話になっちまってたとは……!!
「情けねぇ……」
思わずそんな言葉が漏れた。
***
(リスペクトタイトルだけだとタイトル付けが難しくなってきたので、故事成語などからもタイトル付けてみることにしました…!)
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