第3話 ははは!おもしれー女だ!
だが、その中でただ一人。
濃い赤色の衣装を纏った女が変わらぬ視線でオレを睨んでいた。
「……四妃二位の
侍女がそっと耳打ちする。
「二位か。
しかし
そういえば飛燕は『
燕で考えると、
となると四妃最上位は
オレがそんな風に考えていると、
「おお、艶やかだな!」
他の女たちもなかなか筆が乗りそうな美人だが、
「あなた、一体何をしましたの? また何やら庭を荒らしたと聞きましたわ!」
「はっはは! また、か」
笑い事じゃございませんのよ!
――うん。さっきから気になってる妙な気配はこいつじゃねぇな。
オレはぎょろりと周囲を見回して、そう内心で頷いた。
どうにもこの後宮には、『妙な気配』としか言えない妖しげな気配が漂っている。
それはとても微かな匂いで、僅かな違和感。きっと小さな何かが結果を変える、命のやりとりをしてきた者にしか察せられないものだろう。
直接的な敵意や殺意なら分かりやすいが、この、足首までヒタヒタと
――こりゃ、さすが後宮ってことかな。
後宮って場所は、あの宦官も真っ青な泥沼の世界だって聞いてるが……?
そんな風に思考を巡らせていたら、
「あなた、しかも『
「ほぉ。……なあ? こいつは飛燕の好敵手なのか? 随分仲が良さそうだが」
「仲良くなんかありませんわ!」
オレが傍らの侍女にこそっと訪ねると、
「はい。
「飛燕さまはその……鍛錬にしか興味がなく、その……」
二人の侍女が言い難そうに言葉を重ねる。
「おう、分かった」
どうにも飛燕は、本当に後宮妃らしくない女なのだなと理解した。
しかしこの女、ジャレついてきたのかと思っていたが、素直にオレ様に喧嘩売ってんのか。いい度胸だ。
「
「陛下に……? あなた! 本当ですの!?」
「ははは! おもしれー女だ!」
オレは片手でドンッ! と、
「っ! ぶ、無礼ですわ!」
だが、これだから悪ノリは面白れぇ。
オレは頬に添えていたその指で、
「なっ、何をしますの!?」
「まぁまぁ」
そして飛燕の白い指が、これまた白い
後宮妃だっていうのに随分と
この、ほっそりしているが丸みのある柔らかな肢体、艶やかな黒髪に気の強そうな黒曜の瞳。
「なあ、あんたを絵を描かせてくれねぇか?
「にっ……!」
「オレは美人画を描くのが趣味なんだ」
ニヤリと笑って耳元で言うと、
飛燕の声は女にしては低く、ひそやかに囁く声はなかなかに色っぽい。悪くねぇな、と思うが残念ながらオレ自身なんだよな……。ちょっと抜けてるとこも好みだってのにがっかりだ。
「なあ、
いいな? と駄目押して、オレはサッと体を離し「おう、行くぞ」と先導の兵士へ言った。
そしてオレの背後では、
「はっ、はぁ!? な、なんですの!? あの
「わ、わたくし……おかしいですわ……っ!?」
――そんな騒ぎの中、オレは反対側の二階からの静かな視線に気付き、チラリと目を向ける。
そこにいたのは、雪のように白い肌と輝く金の髪を持った女。
「おう、あの女は誰だ」
「え? あ。あのお方は
「上級四妃の筆頭で、誰にでもお優しく、『
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