第10話

 キーンコーンカーンコーン―――。

 テストの終了を告げるチャイムが鳴った。

 それと同時に俺は思いっきり伸びをする。


「んっんー! やっと終わったー!」


 本日は中間テスト最終日。

 長かったテスト勉強を終え、すぐ近くに期末テストを控えてはいるものの、ひとまずの小休止である。


「お疲れー…」


「お疲れ様です。お二人ともよく頑張りましたね」


 雨野と田中が俺の所に来る。

 

「おう、二人もお疲れー」


 俺は二人にそう返す。

 雨野は普段と変わらない様子だが、田中は見るからに疲れ切っていた。

 バッグは肩から垂れ下がってるし、今にも俺に倒れ込んできそうだ。


「本当にお疲れだな田中は、大丈夫か?」


「もうしばらくは勉強したくない…。でも! 今回は委員長たちのおかげで結構できた自信があるんだ!」


 一転、田中はVサインを俺に向けて言う。

 そこで俺は、ふとある事を思いついた。


「なあ、お前ら今日暇か?」


「うん」


「そうですね。特にこれと言って用事もありません。明日はお休みですし」


 そう、雨野の言う通り俺たちは明日が休みである。

 別に今日が金曜日だからではない、俺たちの学校では中間と期末テストが終わった翌日は休みになる。


「だったらさ、みんな今日うち来いよ」


「いいのか!?」


「突然行ったら、ご家族にご迷惑がかかるのでは?」


 雨野そう言われたので、俺はすぐに家に居るであろう母親に連絡することにした。


『今日うちに友達泊めたいんだけど、大丈夫?』


 間を置かずに付く既読の表示。

 そこからすぐに返事が来た。


『何人?』


 何人か……田中と雨野、それから有笠も呼ぼう。

 この中間テストは有笠のおかげで乗り切れたといってもおかしくないからな。


『たぶん3人』


『分かった。来るとき連絡して』


『はいはい』


 このやり取りで会話を終え、俺は再び雨野たちに話す。


「いいって」


「やったー!」


 さっきまでの死にそうな顔をどこに行ったのか、田中はジャンプして喜ぶ。

 

「優也の母さんの手料理マジで美味いから楽しみ!」


「確かに、出雲くんのお母さんの料理はお店に出してもおかしくありませんからね」


 雨野の言葉を聞いて『あれ、雨野って母さんの料理食った事あったっけ?』と思ったが、この世界では俺と雨野は幼馴染という設定なんだから、そりゃあ飯をごちそうになったことくらいあるかと納得した。

 というよりも、目の前で『余計な事言わないでくださいね?』と言わんばかりに雨野が俺を睨んでくるから何も言えなかったが本音である。


「じゃあ、俺有笠にも声かけてくる」


「お、美由ちゃんも来るんだ!」


「そりゃそうだろ、このお前らに声かけて有笠に声かけないは無いだろ」


「確かに、有笠さんとの親睦をさらに深める為には良いかもしれませんね」


「だろ? じゃ、俺行ってくる」


 俺は二人に手を振りながら教室を出て、軽い足取りで廊下を進んだ。

 廊下には俺たちと同じく、テストが終わって浮かれている生徒たちで溢れかえっている。


「えーっと、確か有笠の教室は……」


 有笠はD組だ。

 なんで知ってるかって? これだけ長い事テスト勉強や昼飯を一緒にしてきたんだからお互いのクラスくらい把握してて当然だ。


「おーい有笠ー」


 俺はD組のドアを勢いよく開ける。

 するとそこには、数人の女子に囲まれる有笠がいた。


「あ、出雲……くん」


 そして、俺を見る有笠の目は悲しそうな顔をしていた。

 

「誰あんた?」


 俺にそう話しかけるのは、いかにも私イケてると言わんばかりの女子。

 金髪、制服の着崩し着用、しかも、これ香水か?


「くっせ…」


「はあ!?」


「誰だか知らないけど、香水付けるならちゃんとした方がいいぞ。臭くてたまらん」


 女子は信じられない様子で俺を見るが、俺は無視して有笠に寄った。


「どうしたんだ有笠?」


「え、えっと……」


「この女があたしのシャーペン盗んだ上に壊したのよ!」


 聞いてもいないのに俺に返すさっきの女。

 シャーペンを盗んだ? 有笠が? こんな奴の?


「ち、違う…! 私、盗んでなんか…」


「嘘つきなよ! 私見てたんだから、あんたが莉子の筆箱からシャーペン盗んだの! あれ、莉子の思い出のシャーペンだったのよ! どうすんの? 弁償できんの!?」


 俺は床を見る。

 そこには、確かにシャーペンらしき物が転がっていた。

 だけど、もうバラバラになりすぎてお世辞にもシャーペンとは言えない。

 けど、俺にはそのシャーペンが誰のものか、すぐに分かった。


「これ、有笠のシャーペンだよな?」


「え?」


「あんた何言って…」


「うっせな、てめえ黙ってろよ!」


 俺は声を出そうとする女子生徒に叫ぶ。

 するとその女はすぐに黙った。

 これは有笠のシャーペンだ。

 何故なら俺たちは彼女がこれを使う所を何度も見てきた。

 このテスト勉強の間、何度もだ。


「これは有笠のシャーペンだし、多分お前らが壊したんだろ?」


 俺は囲んでいる女どもに言った。

 すると、さっき莉子とか呼ばれたあの臭い女が言ってきた。


「はあ? あんた何言ってんの? そんな証拠ないじゃん、まじ笑える」


 女が笑うと取り巻きも笑った。

 確かにこの女の言う通り証拠は無い。

 けど、それはこの女どもも同じだ。


「じゃあ俺に聞かせてくれよ。このシャーペン、お前にとってどんな思い出の品なのか」


「はあ?」


 女はまたそう返す。

 こいつには聞き返すときに「はあ?」としか言えない呪いにでもかかってんのか?


「さっきそこの女子が言ってたろ? これはお前にとって思い出の品なんだよな? じゃあどういう思い出があるのか言ってみろよ」


「ちっ……うっざ」


 女はわざとらしく言った。

 すると、そこに聞きなれた声が響く。


「優也ー、いつまで時間かかるんだよー!」


「これは……」


 いつもの様に能天気な田中と、この状況から何かを察した雨野がそこにいた。


「あれ? 何々、どうしたのみんな揃って!」


 田中たちも俺の様に割り込んでくる。

 

「ああ、実はな。有笠がこいつのシャーペンを壊したらしいんだよ」


 俺は床からシャーペンだった物を拾い上げ、二人に見せる。

 すると二人も、俺と同じ反応をした。


「え? これ美由ちゃんのシャーペンじゃん! どうしたの!?」


「そうですね。これは間違いなく有笠さんのシャーペンです」


「ち、違うの田中くん! これはね…!」


 莉子とかいう女は先ほどと違う様子で田中に言う。

 一体この状況で何が違うのか聞きたいが、今はとにかくこの場から離れるか。

 

「もう話が進まねえし、有笠も行こうぜ。そのシャーペンなら心当たりがあるから」


「そうですね。こんなゴミ溜めの中に居たら有笠さんにも私達にも悪影響です。早く行きましょう。なんか臭いますし…」


 あ、雨野さんもお気づきでしたか。

 やっぱりくせえよな、よかったー俺だけじゃなくて。

 そして、雨野は有笠の手を取り、俺は田中に声をかけて教室の出入り口に向かった。


「ほれ行くぞ田中」


「あ、おう! じゃあみんなまたねー!」


「あ、ま、待って田中くん!」


「あ、そうだ君、お風呂はちゃんと入った方がいいよ! 何かクサいし!」


 その田中の一撃を最後にあの女が口を開くことはなかった。

 うーわ、裏表の無い一言ってここまで武器になるんだ、初めて知ったよ。

 俺は田中を引き連れながら、そんな事思った。

 とりあえず、今日は有笠の予定は聞かずにうちへ強制連行だ。

 

 

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神様に一目惚れしました ポンチョ @poncho_02

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