第8話

「と、とりあえず、有笠にはまた俺から伝えておくよ。こっちの人は雨野日和。うちの学級委員長」


「よろしくお願いします」


「ひゃ、ひゃい! よろしくお願いいたしますです!」


 うーん、有笠の緊張が凄く目に見えてる。

 俺と初めて話した時でもまだまともだったぞ。


「次にこっちの」


「はいはーい! 有笠さんって名前なんて言うの!?」


 俺が説明しようとした上から声を被せる田中。

 そんな田中に気おされながら、有笠はおどおどしながら返す。


「あ、有笠、美由、です」


「じゃあ美由ちゃんね!」


 どうやら田中の中での彼女の呼び方が決まったらしい。

 というのは置いておき、俺は有笠に田中の事を説明する。


「えーと、この通り色々うるさい奴だけど、悪気はないから気にしないでくれ」


「ただおバカなだけなんです」


「あ、あはは……そうなんだ…」


 有笠の失笑がそこにはあった。

 そして、次に口を開いたのは意外にも雨野である。

 

「時に、有笠さんと出雲くんはどういった関係なんですか?」


「えーと、実は俺が助けたのが有笠で、そのお礼にテスト勉強を手伝ってくれてるんだよ」


 俺は有笠との今に至る経緯を説明した。

 すると、雨野は次に俺に聞いてきた。


「なるほど、分かりました。では次に出雲くん。どうして私にテスト勉強のお願いをしてこなかったのですか?」


 そう言われると確かにそうだ。

 有笠は勉強が得意とは言え、成績と言えば学年トップの雨野には流石に及ばないだろう。

 現に少し前に見せてもらった雨野のテストはほぼ100点か90点台後半というものばかり。

 そんな彼女に勉強を見てもらうのが一番と言えるかもしれない。

 

「うーん、意地かな?」


「意地?」


「多分だけど、俺はお前の力を借りないでテストに挑みたかったんだと思う。まあ、実際はこうして有笠の力借りてるんだから胸は張れないけどな」


 俺は雨野に笑いかけた。

 

「はあ……、男子って分かりませんね」


 雨野は微笑みながら返す。

 そこから俺たちはテスト勉強を再開した。

 

「悪いな有笠。置いてけぼりにしちまった」


「う、ううん大丈夫だよ。出雲くんの言ってたことも分かったような気がするし」


「?」


「みんな、すごくいい人」


 有笠は向こうで田中に手を焼く雨野を見ながら言う。

 

「それに、もちろん出雲くんも」


「俺? 俺はいい人なんかじゃないよ。ただの平凡な奴だ」


「そんなことないよ」


 俺は有笠にそう返される。

 すると彼女は続けた。


「出雲くんは名前も知らない私を助けてくれた。今もこうやって、私にお友達を紹介してくれた。だからね、出雲くん。君のそういう所は本当に凄い事なんだよ」


 珍しく、というより初めて、俺は彼女のそんな真っ直ぐな言葉を聞いた。

 その言葉を聞いてから、次第に俺の顔を熱を持つ。


「な、なに恥ずかしい事言ってんだよ! いいから、俺たちもテスト勉強始めようぜ」


「ふふ、うん。そうだね」


 今日は、終始女子に遊ばれながらテスト勉強を終えた。

 けど、俺の頭にはどうしても有笠のあの真っ直ぐな言葉だけが残り続けた。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 今日もとっても楽しい1日だった。

 雨野さんと田中くん、新しく二人のお友達も出来た。

 きっと明日も、そんないい日になると思う。


「美由ー。またお手紙来てたわよー」


「あ、うん。ありがとうお母さん」


 お母さんから手紙を受け取る。

 あて名は私、だけど差出人の名前は無い。


「また、かな…」


 私は部屋で手紙を開ける。

 そこには


『お前が来ると教室が臭くなる』


『目ざわりなんだよ』


『お前と同じクラスとか恥ずいわw』


『二度と顔見せんな』


 という私に対する悪口が延々と書かれていた。

 私はその紙を破り捨てる。

 そして、すぐにベッドに潜った。


「大丈夫…、今の私には、友達がいるから…」


 私は自分に言い聞かせるように眠りについた。



 

 








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