第7話

「最近、他クラスの女の子といる事が多いですね」


 昼休み。

 勉強に追われる俺にとっては数少ない憩いの時間に、何故か雨野からそう話を振られた。


「ああ、有笠の事?」


 俺は手に持っている野菜ジュースを飲みきり、彼女に返す。

 まあ、あれからよく図書室でテスト勉強している雨野と田中を見てたから、向こうが俺たちを見つけても不思議はないだろうと俺は思った。


 しかし分からないのは、何故今、唐突に雨野がこんな話をしてきたのかだ。

 と思っている俺に、雨野は顔を近づけてきた。


「貴方、私が以前に病院で言ったことを覚えていますか?」


 正直、それだけ言われると分からん。

 病院で言われたことと言っても色々だからだ。

 そんな俺の考えを察したのか、雨野は『はぁ…』と小さくため息をついた。


「私は言いましたよね? 私を惚れさせてくださいと」


 そう言われて、俺はようやく理解した。

 

「確かに言われたな」


「覚えていましたか。それは褒めてあげます」


「ありがとうございます」


 俺たちは淡々と話す。

 だがまたしても雨野が俺に顔をグッと近づけてきた。

 吸い込まれそうに澄んだ瞳、鼻に入る甘い香り、そしてあと少し近づくと重なってしまいそうな唇。

 雨野のすべてが、俺の心臓を高鳴らせる。


「しかし! 復学してからの貴方は、私を惚れさせるどころか、話もしようとしないじゃないですか! やる気あるんですか!?」


 目の前で声を荒げる美少女。

 この話をしていたのが屋上でよかった、教室内で話してたらみんなからとんでもない噂されているところだ。


「あの、それそれとして、雨野さん?」


「何ですか!?」


「―――近くない?」


「? ……っ!」


 俺の言葉を聞いて理解した雨野はすぐに距離を取った。

 離れてくれて助かった。これ以上は俺の方が持たなかったからな…。 

 

「んで、何だっけ? 俺がお前を惚れさせるのに必死にならない理由?」


「そうです」


 口を少し膨らませる雨野。

 そんな少しの仕草も可愛いと思ったが、俺はすぐに彼女に言った。


「やる気はある。お前には俺に惚れてほしいどころか、あの日言ったように結婚してほしい」


 これは俺の本心だ。

 俺は雨野の事が好きだと確信してるし、実際雨野が一緒の学校にいる事もたまらなく嬉しい。


「じゃあ何故」


「けど、お前を惚れさせるのに必死になるのは……上手く言えないけど違う気がするんだ」


「違う、とは?」


「うーん、例えばなんだけど、雨野が何かしようとするたびに俺が勢いよく手伝いをしに行ったり、何もないのに話に行ったら、どう思う?」


 俺が聞くと雨野は考える。

 そして、静かにこう言った。


「率直に言って気持ち悪いですね」


 うーわ、自分で聞いといてなんだけど辛辣だなーこの人。

 まあ、けど俺自身彼女に求めていた答えはそれに近い。


「だろ? だから、俺はいつも通りなんだよ。下手に惚れさせようって気持ちじゃなくて、いつもの俺でいつも通りお前に接して普段の俺を好きになってもらいたいんだよ」


 実際、父さんが母さんと付き合った時もそうしたらしいしな。


「なるほど、では私に普段の貴方を見せてください」


「はぁ?」


 見せても何も、いつも見せてると思ってたんだけど…?


――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 そして、雨野から提案されて今、俺たちはここにいる。


「えっと、出雲くん。この人たちは?」


「あー、前に話した俺の友達」


「雨野日和です。よろしくお願いしますね。有笠さん」


「俺、田中大地! よろしく!」


 彼女の提案とは俺と有笠、そして雨野と田中の四人で間近に迫ったテスト勉強を一緒にしようというものだった。

 



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