第6話

 あれから三日経った今日、学校に戻ってからは久々の休日だ。

 だが、今の俺にはそんな休日を謳歌する時間は無かった。


「母さーん、俺出かけてくるからー」


「優也、どこ行くの?」


「図書館。友達が俺の勉強見てくれるから、帰るのは少し遅くなるかも」


 俺は靴紐を結びながら母さんに言う。

 

「友達って、日和ちゃん?」


「違う、昨日話しただろ。有笠だよ」


 というと母さんは、


「ふーん」


 と言った。


「な、なんだよ…」


「いやー、この前友達になったばかりなのに、もう一緒に図書館でお勉強なんて優也も手が早いなーと思っただけよ」


 何をバカなことを言ってるんだこの母親は……。

 俺は母さんにそんな事を思いながら家を出たのだった。

 まだ5月だって言うのに、暑いなという思いと共に―――。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 こんにちは。

 私の名前は有笠美由っていいます。

 中学二年生です。

 今私は、ある人との待ち合わせ場所に来ています。


「今日も暑いなー」


 私は空を見上げて言う。

 まだ5月なのにこの暑さは凄いと思うけど、天気は晴れなので良かったと思う事にします。


「おーい、有笠ー」


 そんな私を呼ぶ声。

 その声の人は、駆け足でこちらに寄って来てくれました。


「悪い悪い、待ったか?」


「ううん、全然大丈夫だよ。出雲くんだって集合の10分前なんだから」


「じゃあ、有笠は何分前に来てたんだ?」


「うーん、大体20分前かな、確か……」


「早すぎだろ!?」


 私は彼とそんなやり取りを交わす。

 家族以外と話す事が苦手な私だけど、それでも彼の前なら、いつもの私でいられる気がした。


「じゃあ、行くか」


「うん」


 私は彼と一緒に図書館へ向けて歩き出す。

 ここに来るときは早足で来たのに、何故か図書館に向かう足は少しだけゆっくりと、この時間を楽しむように歩いている。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 図書館の涼しさを感じながら、俺と有笠は勉強を始めた。

 有笠の教える力は凄まじいもので、他のクラスメイトと比べて遅れていると感じた俺ですらもう中間テストは問題ないと感じている。


「本当に凄いよな、有笠は」


「えっ?」


 俺は彼女に言った。

 すると有笠は不思議そうに俺を見る。


「教えるのが本当に上手いよな。だってさ、お前に教えられてから俺、今回の中間テスト過去最高の順位取れるんじゃないかと思ってるぜ?」


「そ、そんな事ないよ。出雲くんが凄いだけだよ」


「いやいや自分の事なら俺が一番よく分かってる。有笠の教え方が上手いんだって、もっと自分に自信持てよ」


「う、うん。ありがとう」


 その後も、俺は彼女から勉強を教わった。

 すると唐突に有笠はこう言った。


「でも、中間テストが終わったら、こうして出雲くんと会えないと思うと少し悲しいかな」


「なんで?」


「だって、私が出雲くんとこうしてお喋りできてるのは、私のわがままに出雲くんが付き合ってくれたからだし」


 ……そういえばそうだった。

 有笠と俺は元々お互い知らない間柄だ。

 今回も彼女とこうしているのはテスト勉強だからだ。

 けどそれも、テストが終われば終了になってしまう。


「じゃあ、またこうして遊べばいいだろ」


「え?」


 だから俺は、彼女にこう言った。


「お前がよければ、俺の友達も一緒にこうして遊ぼうぜ。大丈夫、みんな良い奴ばっかりだからさ!」


 まあ、約1名勢いだけの愛すべきバカもいるけど……。

 しかもテスト赤点常習犯の……。


「い、いいの?」


「いいのって、何がだよ?」


「私なんかが、その出雲くんたちとお友達になっても…」


 え、俺友達だと思われてなかった…?

 有笠の発言に俺はグサッと刺された。

 

「ど、どうしたの…!?」


「いや、ちょっとまさか友達とすら思われてなかったのがショックすぎて…」


 うわ、これは心にジワジワくるな。

 やばい、泣きそうだ。


「じゃ、じゃあ、私、出雲くんと友達でいいの?」


「お、おう、もちろんだ」


 こうして俺と有笠は正式(?)に友達となり、連絡先を交換した。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 私は、今日の夜ベッドの上で新しく追加された友達名を見て喜ぶ。


「友達…、出雲くんと友達…、嬉しいなぁ」


 これからも彼と会う事が出来る、そう考えただけで私の心は高揚した。

 私がこの気持ちの名前に気付くのは、もう少しだけ後のお話です。


 

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