第5話
テスト。
それは俺たち学生にとって最大の敵、永遠のライバルとも呼ぶべき物だ。
しかも小学生の時とは違い、この時期にテストで酷い点数なんて取ろうものならもう目も当てられない。
学校では先生たちから放課後に面談という名の強制拘束時間を設けられ、家では両親から同様に話をされ、場合によっては俺たちの最高の癒しであるゲームを取り上げられるという最悪の結果を招きかねない…。
しかも俺の場合、いつものテストでは良くも悪くもない結果だから逆にそれがキツイ。
仮に俺の成績が優秀であったなら、物凄く心配されるが状況が状況だから仕方ないと許される場合がある。
逆に俺の成績が普段から悪いものであったなら、おそらく何もない。
いつもそんな物だからと、それで終わりになるだろう。
だが、俺の場合はここで酷い点数を取るとそこから一気に悪くなる可能性とそれを取り戻すために塾などに通わされる可能性がある。
だからこそ、俺の今の課題は至極単純、成績を前までの通りに戻す事だ。
「とは言え、どうしたものか」
自分でいうのも何だが、俺は特別頭がいいわけでは無い。
だからこそ、この一か月間勉強をしてなかったのは響く。
俺はそう思いながら図書室に足を運び、こうして自ら勉強に励んでいる。
「委員長ー、勉強教えて」
「いいですけど、田中さん。あなた何が不安なんですか?」
「えっとねー、全部!」
遠くから田中と雨野の話し声が聞こえる。
成績という点でいえば、全く正反対の二人だ。
しかし、田中に勉強を教えるのであればおそらく雨野の助けは期待できないな。
「あ、あの、出雲、くん!」
突然話しかけられた声に反応し、俺は後ろを向く。
するとそこには、栗色のショートヘアーをした女子がもじもじしながら立っていた。
だが、向こうは俺の事を知ってるらしい。
俺にはまるで面識はないが。
「えっと、ごめん。君は?」
「わ、私、
有笠…、駄目だやっぱり知らない。
ちょっと聞いてみるか。
「ごめんえっと、有笠。俺、お前と会った事ないと思うんだけど」
「あ、ごめんそうだよね…! えっと、お礼を言いたくて探してたの。他のクラスの人だし、私初めての人と話すの緊張しちゃうんだけど、けどやっぱり大事な事だから、この前は私の事を助けてくれてありがとう! それから、危ない目に遭わせちゃってごめんなさい!」
有笠はそう言って俺に頭を下げる。
俺が有笠を助けて、その結果俺が危険な目に遭った?
一瞬彼女の言っている事の意味が分からなかったが、俺は直後に理解した。
彼女は、この前俺が轢かれそうになったのを助けた子だと。
「あの時、有笠だったんだ…」
「うん。私あの時、ちょっとボーっとしちゃってて、それで気付いたらあんな事に……本当にごめんなさい!」
また俺に頭を下げる有笠。
だが、俺からしたら彼女には感謝したかった。
不謹慎すぎる話だけど、彼女があんな目に遭っていなければ俺は死なず、今の雨野に出会う事が出来なかったから。
だから俺には、彼女に謝られることもなければ、感謝されることもないんだ。
「顔上げてくれよ有笠。別に俺がしたくてそうしたんだし、助けたお前が無事ならそれでいいからさ」
俺は有笠にそう言った。
すると有笠は、テーブルの上に広げられた教科書を見た。
「勉強中だったの?」
「ああ。ちょっと次の中間テストがマズいからさ、こうして勉強してるんだけど…やっぱり難しいな」
俺が弱音を吐くと、有笠は俺の横に座った。
「?」
「えっとね、私、勉強なら少しは自信があるんだ。だからね、もし良かったら出雲くんの勉強を手伝わせてもらえないかな?」
有笠からの問いかけに対して、俺は彼女の手を握った。
「ふぇ!? い、出雲くん…!?」
「あなたが救世主か……ありがとうございます」
俺は彼女に感謝の言葉をあげる。
そして、ここから二週間俺はほぼ毎日彼女から勉強を教えてもらう約束をしたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます