第4話

「うおおおおおおおお、良かったよぉ~!!」


 学校に帰ってきた俺の肩に手を置いて泣く友達。

 ちなみにこいつも入院中に見舞いに来てくれたが、その時もこんな感じだ。


「落ち着けよ田中。俺を心配してくれたのは分かるけど、そんなに泣くとミイラになっちまうぞ?」


「だっでよぉぉぉぉぉぉ~…」


「出雲くん。田中くんは貴方が休んでる間も心配してくれてたんですよ? あんまり無下にしてはいけません」


 田中の後ろから現れる雨野。

 いや、入院中もあなたの事でいっぱいだったんだよこっちは。


「そ、そうだな。悪かったな田中、心配かけた。またなんかゲームしようぜ」


「おお! ところで委員長、むげって何? 俺髪の毛ならあるよ?」


「……」


 このやり取りで分かるように、こいつはバカだ。

 だけど、バカだからこその素直さがこいつに人を惹きつける。

 

「でも、本当無事で良かったなあ優也ー」


 また田中に抱き着かれる俺。

 そんなやり取りをしていると、授業開始のチャイムが鳴り、先生が教室に入ってきた。


「みんな席つけー」


 それを見ると、またあの平凡な日常に戻ってきたんだなと実感した。

 そう、目線の先にいる彼女さえいなければ。

 

「なあ」


「うん?」


 俺は隣の席の奴に聞いてみる事にした。


「あの子、なんだけどさ」


「あの子? ああ、雨野のこと?」


「あいつがどういう人か、知ってる?」


 俺が聞くとそいつは不思議そうな顔をする。

 

「何言ってんだよ。俺たちより出雲のほうが詳しいんじゃねえの?」


「はあ?」


 冗談を言っちゃいけない。

 雨野に会ったのは一か月くらい前の事だ。

 しかも雨野に関係したことは俺だけがよく知らないんだから彼女がどういう人なのか俺の方が知ってるわけないだろ。


 と思ったが、ここはグッと堪えておこう。


「ちょっとまだ記憶がぼんやりで……」


 俺はあまりよろしくない嘘をつく。

 そして、それに納得しながらも少し心配そうに見つめる友人から彼女の事を教えられた。

 その中には、いくつか前に彼女から聞いたこともあった。

 成績は優秀、教師やクラスメイトからの信頼も深い、にもかかわらずプライベートや食べ物の好き嫌いについて知っている物は誰もいないミステリアスさがまたいい……ってちょっと待て。


「最後についてはお前の感想じゃねえの?」


「違うって、男子の間でそういう話になってるんだって」


 いったいうちの男子どもは何の話をしているんだ…。

 だが、肝心なことが分からない。

 俺の方が雨野について詳しいとはいったい…?


「それでそうして俺の方が詳しいになるんだよ?」


「どうしてってお前と雨野は……」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「どういう事だ?」


「何がですか?」


 俺はあの後、雨野を学校の屋上に呼んだ。

 え、もう告白するのかって?

 バカ野郎、そんな玉砕確定の告白しねえよ。


「俺とあなたが幼馴染ってのはどういう事だ。父さんたちもそんな話一切してないぞ!?」


「言うまでもないと思ったんじゃないですか? それに、私の知りえた情報では幼馴染の男女は恋愛に発展しやすいらしいです。貴方に有利にしてあげた私に感謝して下さい」


「その情報かなり古いぞ?」


「え……?」


 もう何度目になるんだろう彼女とのやり取りによる再びの沈黙。

 

「あ、あれ……おかしいですねぇ。私の情報ではこれが最新情報だと…」


 病院の時から思ってたけど、


「雨野ってポンコツだよな」

 

「ポ…っ!? だ、誰がポンコツですかぁ!」


 かわいい。

 じゃなくて、あなたの事ですよ。

 俺は目の前でぷんすか怒る雨野にそう思うが、言わないでおこう。


「そういう貴方こそ大丈夫ですか?」


「何が?」


「二週間後、中間テストですよ」


 中間……テスト、だと!?


「え、俺って免除的なアレにならないの?」


「なりませんよ。何言ってるんですか?」


 復帰早々、どうやら俺は大ピンチらしい…。


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