第3話

 あれから三週間が過ぎた時、俺は医者である先生に呼び出された。

 呼び出されたというとあれだが、まあ検査と学校に行っても大丈夫かどうかというものだ。


「んー……」


「ど、どうですか…?」


 俺のカルテをじーっと見つめる先生。

 その様子を見て俺も少し不安になっている。

 俺自身、体はもう健康そのものって感じがするけど、なにぶん一回死んだ身としては不安になるなっていう方が無理な話だ。


「いや、正直驚いているよ。車に撥ねられ危篤状態、ましてや一回心臓が止まったにも関わらずもうここまで回復しているなんてね」


「じゃあ…!」


「うん。来週には、学校に戻っても問題ないだろうね。おめでとう、よく頑張った」


 先生はそう言った。

 来週からまた学校に通える、というよりも来週からようやく雨野に会える。

 俺はその事に大声を出したくなるほど喜んでいた。

 雨野はあの日から俺のお見舞いには来ていない。

 多分だけど、俺が学校に戻るまでの間に彼女がまたお見舞いに来ることはないんだと思う。

 

「来週には戻って来れるんですね」


 そう思ってんだよ、俺も。


「どうしてまた居るんだよ」


「あら、ずいぶんな言われ様ですね。せっかくお見舞いに来てあげたのに」


「お見舞いに来るタイミングが良すぎるんだよ」


 俺は彼女とそんな話を始める。

 こうして話していると、本当に普通の友達同士みたいだと思う。

 

「時に出雲くん。貴方はカレーという食べ物をご存じですか?」


「カレー?」


 俺が彼女に聞き返すと、彼女はコクリと頷いた。

 カレーというと、あのカレーの事だよな。

 給食の人気者、好きな食べ物ランキングを開催すればトップ3には必ず食い込む(うちの学校内)というあの。


「知ってるよ。というか、多分知らない人のほうが少ないと思う」


「そうですか。では、貴方はカレーを食べられますか?」


 ……さっきからこの人の質問の意味が分からない。

 なんだ、俺にカレーを作ってくれるのか?

 まさか、意外と雨野という名の女神からの俺への印象って好印象だった!?

 

「もちろん。大好物と言っても過言じゃない」


「そうですか、大好物。…………現世の人間はみんなあんなに辛い食べ物を平然と食べるんですか…!? くっ、これは私も負けられません」


 後半はよく聞き取れなかったが、どうやらそれだけ聞きたかっただけらしい。

 泣くな、俺。

 分かってたろ、作ってくれるほど好感度が高くないなんてこと。


「分かりました。それじゃあ私は帰ります。今度こそ、学校で会いましょうね」


「今度はドアに顔ぶつけないでくださいね」


 俺がそうからかうと、雨野は


「分かってますよ」


 と笑って言った。

 その時の彼女の顔に俺がまた惚れ直したのは内緒だ。


 そして、それから一週間経った今日―――。

 俺は校門の前に立っていた。





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