第2話

「状況を整理させてください」


「どうぞ」


 あの女神―――もとい目の前にいる雨野に許可を取り、俺は呼吸を入れ直す。

 そして、静かに目の前の彼女に聞いていくことにした。

 ちなみに、両親とお医者さんには席を外してもらってる。

 両親は何やら勘違いをしてそうだが、そこはこの場合置いておこう。


「まずお前……雨野は俺があそこで会った女神さま、でいいんだよな?」


「そうですね。さっきまで話してましたから」


 どうやら目の前の彼女は本人らしい。

 つまり、俺があの場所で彼女と話していたのも事実という事だ。


「じゃあ次に、どうやって現世に来たんですか? そもそも、俺のクラスには雨野日和なんて居なかったはず…」


 そう、俺には彼女の記憶は無い。

 当然だ、だって彼女はこの現世には居ない人間なんだから。

 逆に彼女の記憶を持っている父さん達が異常なんだ。


「世界を変えたんです」


「……はぁ?」


 どうやって出したのか自分でも分からないほどマヌケな声が俺の口から飛び出した。

 変えた? 世界を?


「この世界には、元から雨野日和という一個人が存在していた世界に変えたんです。だから、私にもちゃんとした両親がいます。ちなみに、設定としては成績優秀なみんなから頼られる委員長タイプという設定です」


 お、おぉ…。

 意外とこの人見栄っ張りだな。

 いや、世界を変えたとか言ってたし、そもそも神様だからそのくらいになってもおかしくない。

 ……おかしくない、のか?


「あ、今失礼な事を考えてますね」


 雨野はそう俺に聞いた。

 その顔は、まるで空気を入れた風船の様に膨らんでいる。

 けど、そんな彼女でもかわいいと思ってしまうほど、やっぱり俺は彼女に惚れているらしい。


「けど、いいんですか? 確か、現世には何も持ってきちゃいけなんじゃ」


 一応同い年らしいのだが、どうしても友達に接するようには出来ない。

 

「まったく…、私だって大変だったんですよ。神を辞めて、ただの人間になるだなんて」


「……は!?」


 今、流れでとんでもない事言わなかったかこの人!?


「神さまを辞めた!?」


「そうですよ。私は死者を導く立場を退き、こうして一人の人間としてこの世界に来たんです」


 軽く言う元神さまこと雨野。

 しかし、ここで新しい疑問が出てきたので、俺は彼女に質問した。


「そこまでして、どうして現世に来ようと思ったんですか?」


「え?」


 雨野は驚くような顔で俺を一回見る。

 そして、すぐさま俺から顔を逸らした。

 …え、もしかして俺って顔を見られたくない人認定された!?


「そ、それはそのあんなに正面から思いぶつけられたのが初めてで…、けど本当に私が綺麗なのか確かめる為に……」


「はい?」


「~~っ! うるさいですね! とにかく、私があ自分の立場を捨ててまで来てあげたんです。あなたには課題を出します!」


 いや、俺まだそんなにうるさく言った覚えないんだけど…。

 と、思わなくもないけど多分ここで言ったらまた怒られそうなので言わないでおこう、今だって右手でグー構えてるもん。

 下手したら怪我人でも殴りかねないもん。


「課題?」


 なのでここは素直に彼女の言う事を聞くだけにしよう。

 父さんも女の言う事に水を差すな、父さんは母さんでそれを重く受け止めたからって言ってたし。


「あなた、あそこで私に言った言葉覚えてますか?」


「結婚してください」


 俺が言うと雨野は顔を赤くする。

 あれ、これってもしかして脈ありという奴なのでは?


「ゴホン…。そうですね。あなたは分不相応にも私に求婚してきました。……まあ、それに釣られる形でほいほい現世に来たのは私なんですが…」


 もしかして、この神さま意外と押しに弱い…?

 

「ともあれ! 私がわざわざ自分を捨ててまで来たのです。だから!」


 雨野はグッと顔を俺に近づけた。


「私を惚れさせてください」


 そして静かにこう言った。


「あなたと結婚しても良い。いえむしろあなた意外とは結婚したくない。そう私に思わせるほどに私を惚れさせなさい」


 目の前にいる俺の惚れた女性。

 いや、正確には女子だけど、ともあれ俺の惚れた人からの挑戦状にも似た言葉。

 その言葉に、俺は笑って返した。


「いいでしょう! あなたがビックリするくらいあなたを俺に惚れさせてみせます。どれだけかかっても」


 俺の言葉に雨野は笑って立ち上がった。


「それでいいんです。そうでなくちゃ、あなたの誘いに乗った意味がありませんからね。それでは、私は帰ります。また学校で元気な顔を見せてくださいね。出雲優也くん」


 雨野はそう言った。

 そして、ドアの前に立って最後に


「ああそれから、今の私はあなたに一切の恋愛感情はありませんから」


 強気にそう言って、勢いよくドアに激突した。

 その時、ゴンっ! という強い音が聞こえたから相当強くぶつけたんだろう。


「……引き戸なの忘れてましたぁ」


 なんとも締まらない元神さまだ。

 しかし、俺は平凡な自分の生活が彼女によって少しだけ刺激的な物になると感じながらまた寝た。

 




 

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