13 花束のお礼
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ジェニファーは退院し、仕事に復帰した。イギリス大使館で開かれる非公式のパーティには、ユーセフ王子も出席するという。花束のお礼を伝えたい、でもそれだけではない想いに胸が苦しくなる。
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ナーヒード医師の許可がおり、ジェニファーは水曜日から現場に復帰した。休んでいたあいだ、エリックがそれまでに見つかった問題点をすべて現場の監督に伝えてくれ、工事は順調に進んでいた。それまでよそよそしかったサジクが、倒れるほどがんばっていたジェニファーを、どうやら少しは認める気になったらしく、なにかと気づかってくれるようになったのは、けがの功名だった。
ユーセフ皇太子への進捗状況の報告は1週間後だが、王子からじきじきにお見舞いのメッセージと花も届いたことから、ジェニファー自身が感じている小さな挫折感を別にすれば、今回の入院は仕事には支障なかったようだ。
「そう言えば、明後日のイギリス大使公邸でのパーティはどうする?」
現場から戻る車のなかで、エリックが思い出したように言った。
「そうだったわね」ジェニファーは少し考えこんだ。
「きみの入院騒ぎですっかり忘れていた。でも今日は、見たところもうすっかり元気そうだから、もちろん出席するだろ? 皇太子に花のお礼が直接言えるかもしれないしね」エリックはにやにやしている。
どうやらエリックには、お見舞いに届いた花のことは筒抜けらしい。
「たしかにそうね」顔が赤くなりませんように。ジェニファーはそう思いながら答えた。「どんな人が来るのかしら」
病院でゆっくり眠れたおかげですっかり体調も回復し、内心では出席する気になっていた。けれども、エリックがぶら下げた王子という餌に飛びついたように思われたくはなかった。
「だいたい、この国とビジネスをしている外国企業の関係者と、こちらの知識人や実業家あたりかな。王子の友人が来るってことは、政治色の薄い非公式なパーティだろう。こっちのセレブも来るかもしれないな。ムスリマたちにとっては肌を出すドレスを着られるいいチャンスだからね。きみの面倒を見てくれたナーヒードも出席するんじゃないかな」
「ナーヒードも?」
「うん、二、三度、パーティで見かけたことがある。じつに印象的な美人だよな。あんなにきれいな髪や肌を隠しておくのはもったいないよ」
「このパーティは肌を出したい女性ばかりか目の保養をしたい男性にも好評ってわけね」
「今回はユーセフ王子も来るだろう。もちろん、目の保養が目的じゃないだろうけど」
ジェニファーの頭にあの吸い込まれそうな黒い瞳が浮かんだ。
「じゃあ、お礼が言えるわね」
その返事を聞いて、エリックはジェニファーが出席すると受け取ったようだ。
「金曜日の7時半からだから、早めにプラントを引きあげよう。しっかりおしゃれするといいよ。7時ごろ迎えに行くから」
ユーセフ皇太子に会えると思うと、なぜか胸が苦しくなった。ジェニファーは自分のおしゃれのことより、王子のことが気になっていた。
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