後編 ①

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※合意なしの百合エッチ注意⚠️


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 ふと周りに目を留めると、そこら一帯には死体…いや、肉片が転がっていた。何とまぁ酷いツラだ、ふんと鼻を鳴らし足元にあった名も知らぬ誰かの頭を蹴り飛ばした。


 そういや思い出した、俺はアイツを助ける為に。何処だろうと目線を回すと、奴は側の木に座り込んでいた。

 少し震えてる。そうだよな、怖かったよなあんな男どもにいきなり囲まれて。


「大丈夫だ、俺が来たからもう安心しろ。」


 ピクリと身体を震わせたものの、俺の呼びかけに応答はない。目線を合わせようとしゃがみ込んだ所で…

気付いてしまった、腕や足に赤い手跡が浮かんでいることに。




 俺は怒りのあまり、口を開いたまま、少し震えていた。沸々と湧き出てくるは憤怒の感情、精気を染めるは何者にも染まらぬ深淵を覗かせた黒。

 此奴は身体つきが柔っこいからなぁ、少し乱暴に握っただけで痕がついてしまうんだよな。2度と消えなかったらどうしてくれようか。

 例えるなら、聖物が俗なる世界に堕ちて穢されてしまったような気分だった。よりにもよって憎き外つ国の彼奴らに。







 ぽっきりと、何かが折れた気がした。まるでそれは安物の鍵のような音をたてていた。

 






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「っ…。ねぇ、痛い…。いた、い。」

 そんな訴えを無視し、シオンの手を引きズンズンと進んでゆく。一刻も早く此奴の身体を清めてしまいたい、その一心で。



 滝壺の辺りに着くと、ぐいとその手を引きつけそのまま川に落とした。


「…ッ!ケホッ、 …何するの!!」

「上がってくるな、そのまましばらく浸かってろ」


 そういい岸辺にあがろうとするその身体を再度突き落とした。シオンはずっと咳き込んでいるが、あがってこようとしたあちらが悪い。身体を数秒水につけた程度であの穢れが無くなるものか。懲りずにもう一度行動を起こそうとしていたので、同じ手順を踏ませてもらった。



 あまりにも動くものだから鬱陶しくなり、そこで一つ閃いた。己の足でシオンの肩を押さえ付け岸に上がれないようにしたのだ。股の間で苦しそうに、必死に手を伸ばす此奴の姿がどうにも可愛い。甚振っているのは紛れもなく俺なのに、その俺に助けを求めているのか。その手を取ってやり、指を絡めるように握って、再度水の中に沈めた。


 …あぁ、そういや此奴泳ぐのが下手だったか。確かまだ足のつかない所では自力で浮くことすらできなかったはず。まぁいいだろう、溺れる寸前のところでは助けてやるからそれまで全身漬けてろ水に。




 爪先立ちでなんとか足はついているらしい、必死に酸素を求める姿に哀れみを覚える。ある程度時間が経ったのち、足に力を込め一度頭の先まで沈めたところで腕を掴み引き揚げてやる。そしてあらかじめ持ってきていた大きめの麻布を用意した。


「ぁ"…は、ぁ。何、もぅ …終わり…?」

「そんなわけないだろうが。お前、何処に触れられた?全部隠さずに言え」

「え、何処って言われてもそんな、覚えてない…」

「………。往生際が悪いな、お前は。」


 そう言葉を投げつけ、少し強引にシオンの首根っこを掴み身体をこちらに寄せる。そして手に持っていた麻布を用いて強めに身体を擦り付けるように拭いた。確か、彼奴らはここに触れていたはず、腕と、足首と、太ももと…あとは腹のあたりか?もしや、胸のあたりも触られてはいないだろうか。

 シオンは嫌だと抵抗し始めたので、鎮める為に力を行使するのち取っ組み合う姿勢になった。まぁそんな状態も束の間、すぐに制圧したが。敵うわけないだろう、そんな産まれたての赤子のようなひ弱なお前がこの俺に。学習能力がないというか何というか、頭までも弱いのだろうかな。






 揉み合ったせいか馬乗りの姿勢になっていた。まぁいい、やりやすい。そのときはたと思い出した。この状況、何処かで…?

 あぁそうだ、思い出した。忘れもしないあの晩も、こうやって彼奴に馬乗りになって色々悪戯していたな。ふふ、と笑みが溢れる。


「お前はあの時、何をしてもその重い瞼を開けることはなかった。そんなんではこの世界を生き抜いてはいけんぞ」

「…?何の話?」

「あの日の晩、俺がお前に何をやったか知りたいのか?


 …実践してやろう。」


 そう言いほくそ笑んだ。またあの行為をやれるのかと思うと気分が高揚し、未だかつてないほど口角が上がった気がする。きっと今の俺、すごく悪い顔してんだろうな。



 口を開けろ、と指示をすると素直に従った。こう言うところが可愛いな、子供のように無知で。

 だからといって容赦をする程俺は甘くないわけで。口の中に躊躇いなく己の舌を突っ込んでやる。逃げる舌を絡ませて、唾液を存分に注いでやるように。

 シオンはよがり、抵抗のつもりか必死に俺の肩を掴み引き剥がそうとしている。弱い、あまりにも弱い。


 あっあっと漏れ出ている此奴の吐息は何とも唆るものがある。そうだな、確かに良いなこれ。お前も同じ気持ちなのかと、そう思うと言いようのない満足感に胸が膨らんだ。



「今のは…?」

「キスだ、そんなのも知らんのか。心地よかったろうに、もっと良いようにしてやるからな。」

「何、何を…




 ッ ひゃっ、 あっ♡」





 ピタ、とその手を止めた。あたり一帯にやけに響いたその高い声に、2人揃って茫然としていた。


 いや、俺のやった行いが引き金となっているのはわかっている。様子から察するに、シオンも何が起こったのかよく理解して居ないだろう。

 ほんの冗談のつもりで此奴の胸の突起を摘んだだけだった。が、俺は聞いてしまった。此奴の喘ぎ声を。街で見かける娼婦の下品で甘ったるい声と同じはずなのに、どうもそれは俺の中の何かを焚きつけた。

 引くに引けなくなったこの状況、楽しくなってきてしまったこの行為。大人がSEXをする理由がわかった気がする。

 もし俺が正気だったらこんなことやっていない。しかし、阿片を吸って頭がぽやぽやしていた俺はもはや理性なきケダモノ以外の何者でもなかった。
















「それにしてもな、ストゥの村のあの戦士はもう少し裾野を広げるべきだと思うんだ。どうもあいつは、頭が硬い。」

「昨今の状況は悪化の一途だ。あの野郎どもに踏み荒された地を思うとやりきれぬ。どうにかして大手を振って行進するあの足を止めねばな。」

「俺の剣技、実は独学なんだぞ。初めて剣振ったのはいつだったろうか…軍人たちに俺の住む村が荒らされそうになって、憤慨した俺はいつの間にか近くにあったナタをぶん投げていたな。そう、さっきお前を穢そうとした軍人たちをやったように。懐かしいな。ふふ。」


 関連性がある話ない話を、誰に語るでもなく連ねていく。

 唯一の聞き手であるシオンは、乳首を嬲られ言葉にならない声を漏らしつつこちらを見つめている。少なくとも今この状況でする話をしていなかったのは確かだ。


 それにしても此奴の乳首、桃色なんだなと再確認をする。裸は何度か見ているが、まじろがず見たのは今回が初めてだ。指の圧力に容易に屈する姿の何とやわいことか。仄かに熱を持ったその突起を潰し、摘み上げては捻って弾く。何か指で行動を起こすたびに反応するのが面白くって仕方がない。少し短めであろう爪でカリカリと引っ掻いてやれば、シオンは今までにないほど仰け反った。身体を捻らせ快楽を逃がそうとしているのだろうか。なんにせよ、俺が馬乗りになってる故どうも出来ないわけなのだが。もどかしそうだなと他人事のように思っていた。



 それはそれは気分が良かった。今ならわかる、俺は此奴を自分の手で蹂躙しているという事実に酔っていたんだ。

 無知で無雑で、そのくせ掴み所がない奴。異質な見た目と相まってその要素は浮世離れな雰囲気を加速させていた。此奴が人ではないのはわかってる、でもそんな奴を俺はこの手で今責め苛ませている。今の此奴はそこらの娼婦と何ら変わりはない、ただ快楽に喘ぐ女だ。俺がこの手で俗の世に引き摺り込んでやった、俺が穢した、俺が堕とした、この卑しく醜悪な蠱毒壺のようなこの人の世に!

 今俺の手のなかにいるのは神様なんかじゃなくて



 ーただの弱者だ。

 それは友に向ける感情だろうか。否、違う。だとしても、この時の俺にはそれがわからなかった。






















「おいシオン、足開け」

「…やだ」

「嫌だじゃ無い」

「や だ ! ! ! ! ! 」

 

 不意を突かれ、耳をつんざくような大声に顔を歪めた。やだ。やだって何だよ。先に紡がれるであろう言葉を傾聴する気になれず首を押さえ付けてやろうかとも思った。


「今のクォイニャンは…なんか変だよ、いつもの君じゃない!しかも何、この行為。変な気分になる、私やりたくない!」

「気持ちいいんだろう」

「だからッ」

「気持ちいいんだろうが。嬌声あげて、身をよがらせて。快楽に呑まれてる証だろそれが。

 …気持ちいいんだろうが!!!!」



 恥部を隠そうとしていたシオンの手を思い切り地面に押さえつける。



「ヤダ、ヤダッ!!凄く嫌だ、お願いやめて!!」

「少し黙って大人しく寝てろ!縛り付けられたいのか!!」


 そう警告したはずなのに此奴は足掻く気配をやめない。流石に鬱陶しいと思った矢先、すぐ手の届く木に筌(うけ)が見えた。これは魚を獲るための罠なのだが、丁度いい。手早くそれを手に取り、破壊する。そして、これに使われていた麻紐でシオンの手首を縛り上げた。





「うあ" ぁぁ ぁん、痛い、痛いよぉ"ッ!!!!!!」






 逃げないように、故意にキツく縛ってやると、ついに此奴は泣き出してしまった。


「泣くな。安心しろ、あんな暴漢に襲われた事はすぐ俺が忘れさせてやる。俺が気持ちよくしてやるからな。

 あんな奴らよりも、俺の方が…俺の方が…、俺が。」


 …女同士のSEXのやり方は知らないけれど。

 けれど、お前を襲ったあんな下衆な男どもよりは断然マシなはずだ。俺の方が穢れてない。俺の方が。


 あたりに響く泣き声を全くもって無視をして、股の間の割れ目に指を滑らせる。湿っていた。

 湿っているのは気持ちいい証拠、らしい。何だ気持ちいいんじゃないか、受け入れているんじゃないか。お前の口から出ている拒絶の言葉は真っ赤な嘘なんだな、なら続けてもいいよな。


「…嘯いた態度を取りやがって。」


 半ば嘲笑の域にまで達していた。


 ぬるりと指を滑らせていくと、指がズブズブと入っていく部分を見つけた。穴、か。確かここに男のイチモツが入っていっていた気がする。尿道とも違う穴、滑りを良くさせていた粘液はここから出ているらしい。

 中指を1本、膣の中に入れてみる。嫌だ嫌だと叫び首を振るシオン、何かを察したのだろう。まぁそんなことはお構いなしに中を引っ掻き回したのだが。大きな肉のうねりが中で起こっている。それを弾き返すようにずん、ずんと肉の圧を指で押し返してゆく。先程の絶叫は何処へやら、ハッハッと明らかに息を上げるシオンのその様を、妙に冷めた目で見つめていた。俺の心は今、閑やかだ。




「やめて…、やめてくれ…頼む"… ッ。。」


 ぽつりとシオンが呟いた気がする。彼女は最早泣き喚いてはいなかった。ハラハラと涙を流し、ただこちらを見つめている。


「…何が、何が嫌なんだ。何故そこまで抵抗する。」


「…………………………………怖い。」


「怖いって、何が」

「君が。」

「何言って、」










「君が、貴方が、怖い。」










 灰色の、死体みたいな色をした瞳でこちらを見つめてくる。声も身体も震えているのは伝わってきたが、毅然とした態度でこちらを見据えていた。


 辺りが凪いでいる。聞こえてくるのは、シオンがしゃくり上げる音くらいか。娼婦のように服を剥がれ足を開く姿を前に、思い起こしたのは憎き軍人により無惨に荒らされた村の娘たち。

 そして、己の…姿形も知らぬ苦々しい印象を持つ父親の面影だった。




 …あれ、俺、同じことしてないか?















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 俺の父親は、外つ国の軍人だったそうだ。







 かつて、国からの招集で望まずしてこの国ラナーに来てしまった父親はそのあまりに酷い戦場を前にして心神喪失。生き残りたい、死にたくないという精神が錯乱を引き起こしたのか、当時未成年(19歳)だった母親と性交をするという事態を引き起こした。母親曰く、合意だったという。懇願されて承諾をしたというが、我が母は…とても気が弱い。実の娘である俺に対してさえ遠慮がちに接されている。今も、そして幼少期でさえ。


 まぁ今は母親との関係性はどうでもいいのだ。問題は、売春婦でもない未成年の母親に大の大人がみっともなく頭を下げて抱かせてもらったという点。血の繋がった父親ながら恥ずかしいことこの上ない。母親は父親が人格に支障がきたしている前の姿を見たことがないというが、ろくな人ではなかっただろうに。

 挙げ句の果てに、一晩だけ抱いて翌日戦場に赴き…帰ってこなかったという。この結末には呆れ返るしかない。


 そんな父を俺は快く思っていなかった。血肉を分けられたとはいえ、俺は今現在図に乗っている忌々しい外つ国の軍人と父親を同一視している。所詮、余所者。母親を凌辱したであろう父親を、一生涯許す気はなかったし彼の身に立ち心情を考えるなど天と地がひっくり返ろうとあり得ないことだと思っていた。






















 …………………俺は先程まで何をやっていた?


 目を見開いても、周りが見えない。否、目の前に何があるのか頭が認識してくれない。理解が追うことを拒んでいる。

 それでいながら頭からは血の気が驚くほどの速さで失せていき、心臓はその活動を徐々に加速させていくのだから不思議なものだ。


 放心状態になってからどれほどの時間がたったのか。もぞり、と股の間で挟んでいた何かの肉が動いた。何かの肉は俺の指先に触れた。5本に分かれた平たい面を持つ肉は、俺の手のひらからそっと上に撫で上げていき、二の腕、肩、鎖骨、少し浮いて顎、そして頬に触れたところで止まった。

 それが引き金となったのか、この時初めて俺は目の前の残状を真っ当な精神で見つめた。







 何かの肉、…シオンに俺は太もも辺りで馬乗りの状態になっていたことを目で確認した。恐る恐る視線を上げていくと、太ももには荒く擦られたような痕が見えた。痛々しい程赤いそれに顔を歪ませる。スッと顔を上げ彼女の体全体を見渡せば、擦り痕が複数箇所見えたのに加え濃い手の痕が顕著に伺えた。


 他にも何か、傷跡がある。引っ掻いたような傷が。手首からは血が出てる。縄で縛った跡がある。いつ何でどのような形で傷つけたのか全て把握してしまっている俺には、情報量が多すぎてもはや理解ができない。











 爪の間に、それは白い皮が詰まっていた。指先は、微かに血が付いていた。残念ながら、俺は全て覚えている。


 ちらりとシオンの方に目をやる。泣き腫らしたせいで目元が赤い、涙が伝った跡が見える。口元に麻の破片が残っているあたりを見ると、縄は自分で噛み千切ったようだ。それでも尚、俺はシオンの目を見ることはできなかった。

 でも、まず、伝えなくては。仲直りの言葉を。もう元に戻れないとしても、伝えなくては。そして貰うんだ、拒絶の言葉を。

 1秒が長い。ここにきてようやく、嫌な汗が噴き出してくる。頭が重く感じ、やがて頭が下がる形になっていた。



「…ッ。」

「…………。正気に、戻った?」

「…!」

「沈黙は肯定って、事でいいかな。

 ふふ、良かった」

「…?」

「大丈夫。……………君が元通りになったってちゃんとわかるよ。いつもと違かったもの、んっとね…わかる、わかるよ。

 ははは、うまく言葉が見つからないなぁ、ちゃんと伝わっているかな?」

「……」

「口数が、少ないねぇ。ふふ、お喋りさんな君もいいけど、ね。」



 ーいつもの君に戻ったんだね。

 ここで初めてシオンの目を見る。朗らかに目を細めていた。そういって、此奴、えらく無邪気に笑ったんだ。初めて会った時、俺についてくって言った時のあの顔と全く同じ顔で。


























 自分が犯したあまりにも大き過ぎる罪と、何も咎めず一笑したシオンを前にして俺は


 ごめんなさいすら、言えなかった。




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