謝罪
ようやく動いても痛みを感じなくなり、医者からもう大丈夫だと言われても、ニコラスはフィーネのことが心配でならないようだった。
仕事の最中にも頻繁に様子を確かめにきて、顔色が少しでも悪いと、すぐに横になるようにフィーネの仕事を取り上げた。それに罪悪感を覚えながらも、フィーネは幸せだった。久しく感じていなかった平穏が訪れた気がした。
でもこんな幸せがそう長く続かないのは、もう知っている。
「フィーネ、本当にごめんなさい。私、あなたになんてお詫びすればいいか」
具合のよくなったフィーネのもとへ、しばらく訪問が途絶えていたレティシアがまた屋敷へと訪れた。彼女はフィーネの姿を見るなり、謝罪の言葉を口にした。
こちらが気の毒になるほど青ざめ、全身が震えていることに、その場にいる誰もが気づいていた。だからフィーネは顔を上げて下さいと優しい声で話しかける。
「レティシア様、あなたが気に病む必要はどこにもありませんよ」
フィーネは自分と瓜二つの顔に優しく微笑みながら、レティシアの目尻にたまった涙を拭ってやった。並んでいる二人はまるで双子の姉妹のように見える。
「……あなたは私を許して下さるの?」
フィーネを突き落としたライノット伯爵は、もともとレティシアに恨みを持っていた。
決して意図的ではないものの、レティシアの言動が伯爵を煽り、今回のような事件を引き起こすことになった。いわば彼女がこの事件を引き起こした原因とも言える。
だがフィーネにはどうでもよかった。
ニコラスさえ無事であれば、フィーネには誰が、どんな人間を憎んでようが、気に留める必要のない、些細な出来事として置き換えられる。
ライノット伯爵が貴族社会を追放され、極刑を言い渡されようが、そんなことはどうでもよかったのだ。
「許すも何も、私はあなたを恨んではいませんわ」
だからこの言葉も、フィーネの嘘偽りない本心だった。それでもレティシアは大きな目をさらに大きくして、唇を震わせた。
「……ありがとう。フィーネ」
レティシアはフィーネを抱きしめ、フィーネも彼女を抱きしめかえした。
ニコラスがそんな二人を美しい友情だとばかりに褒め称え、フィーネは黙って微笑んだ。
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