不思議な人
あれからニコラスはあまりユアンと関わらないように、と遠回しにだが、フィーネにははっきりと伝わるよう釘を刺した。
フィーネは言われたとおり、なるべく外に出なかった。ニコラスが屋敷に居る時は、彼の近くで過ごすようにした。そしてそれはなかなか辛いことだった。
今まではニコラスに約束を破るなと指示されても気にならなかった。むしろ頑なに守ろうと努力しただろう。
けれど、ユアンが最後に見せた表情がフィーネを悩ませた。途中何度教会に行こうかと迷った。だが結局ニコラスの顔色が気になり、大人しく屋敷にいる日々が続いている。
(これでいいのかしら……)
フィーネはこれまでニコラスの言葉に疑問を抱くことはなかった。たとえ抱いても、ニコラスが正しい、自分が間違っているのだと彼女は深く考えることはしなかった。けれど今はひびが入ったコップのように、水を飲もうと行動に移す瞬間、手を止めてふと考えてしまう。
このままコップの水を飲むのは、危なくないだろうかと。または、どうして今までこの歪さに気づかなかったのだろうかと。自分は今まで何を見ていたのだろうと。
(彼に出会ってから、私は変わってきている……)
ニコラスが望んでいない自分になってゆくのは、ひどく恐ろしくもあった。だから時々こうして自分に歯止めをかける。これ以上進んではいけないと。
一方でユアンを不思議な人だ、とフィーネは思う。最初に出会った時も、なぜか初めて会った気がしなかった。
(もしかして前世で会ったことがあるのかしら……)
フィーネはしばし自分の記憶を思い返してみたが、すぐに首を振った。ニコラス以外の人物はみな朧気で、あまり覚えていない。やっぱり気のせいだと結論づけ、フィーネは考えることをやめた。
そうするのが、結局一番楽だったから。知らない振りをできたから。
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