【書評】愉しい学問 / フリードリヒ・ニーチェ 著 / 森 一郎 訳 / 初版 1888年 / 翻訳版 2017年 / 紙版 / 講談社学術文庫

──『この人は上へ登ってゆく──彼は讃えられるべきだ。

   ところが、あの人の場合、いつも上から降りてくる。

   彼は、称賛をみずから放下ほうげして生きる。

   彼こそ、上人なのだ。』──


☆☆☆

 書籍の中の引用部分は『』で書かれています。著作権違反にならないように慎重に書いていきます。

☆☆☆


 自由に書いていこうと思う。

 実は、私はこの本を全て読んでいるわけではない。名言の宝庫であるこの著作は、別に全て読まなくても、紹介するに値する。

 

 どういう本かと言えば、ニーチェがノートに書き記した名言集のようなものである。簡単に言えば、ニーチェの時代にツイッターがあれば、こんなことを書いていた、というような書物になっている。


 冒頭の引用だけでもしびれる人はいるだろう。『60番 高等な人間』として紹介されている4行なのだが、まさにニーチェらしい、「特別」を扱ううえでこれほどにない引用となっているだろう。『ところが、あの人の場合、いつも上から降りてくる。』かっこいいね。西尾維新が好きな人とかはしびれる名言集になっているのではないかと思う。


 他にも紹介しよう。


『──たった一人、楽しまない人間がいれば、それだけでもう一つの家庭全体をたえず不機嫌にし、曇天を覆わせるのに十分である。しかも、そうした家族が一人もいないというのは、奇蹟によるものでしかありえないのだ。──幸福とは、なかなかそうは伝染しない病気である。──どうしてそうなのだろうか。』


 まさに名言。その通り。宴会なんかで、ノリが悪く楽しまない人間がいると、途端にそのグループには曇天のような沈黙が訪れるものである。ノリが悪く楽しまない人間とは自分のことであったが。このことを中学くらいで発見し、みんなが笑っていたら自分も笑うようになっていった。人間として薄っぺらいが、これが真実である。いじめの研究などにもこの名言は使えるのではないかと思う。『──たった一人、楽しまない人間がいれば、それだけでもう一つの家庭全体をたえず不機嫌にし、曇天を覆わせるのに十分である。』格言。みんなも失敗しないように集団の中にいるときはノリを大切にしようね。いじられるのといじめられるのとでは天と地ほどの差があるから。あと受け取り方も結構重要なのかもしれない。『239番 楽しまない人』に載っている。


 最後にみんなも知っている『神は死んだ。』の名言で終わろうと思う。


『……。神は死んだ。だが、人の世の常として、おそらく、さらに何千年もの間、神の影を映ずる洞窟が存在することだろう。──ということは、われわれは──われわれは、神の影にすら打ち勝たねばならないのだ。』


 これが一番大事な引用になるのかもしれなかった。『神は死んだ。』くらいは誰でも知っているだろうが『人の世の常として、おそらく、さらに何千年もの間、神の影を映ずる洞窟が存在することだろう。』はまさに名言。神に成り代わり、世界を支配しているのは、専制国家が出来上がってしまったことを予言しているように考えられる。ロシアではプーチン氏が、中国では毛沢東氏を神格化しそれを受け継がんとする習近平氏が、北朝鮮では金正恩氏が金家を神格化して国家を平定している。いつの時代も、それぞれの国の神がいた。アドルフ・ヒトラー、スターリン、などなど。「これは専制国家ではないのか? 神格化され過ぎているのではないのか?」と思う国々はたくさんあるが、やめておこう。


 とりあえずは、「国家を超越する神は死んだが、国家をまとめ上げるための神に成り代わる専制主義国家は世界中のあちこちで、時代を問わず、現代でも続いている」ということをニーチェは予言している。それに、これは『何千年もの間』続いていくと予言している。打ち勝たねばならないかは別として、「神に成り代わった統治体制は必ず起こる」と予言していたニーチェはさすがだとしか言えない。ちなみにこの格言は『108番 新たな戦い。』に載っている。ぜひ読んでほしい、現代にも通じる格言集となっている。


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