PART7

 観覧席は腕章を着けた私服デカと、制服姿の警官オマワリでごった返しており、俺は俺で相変わらず人相の悪いのに取り囲まれて、毎度おなじみの嫌味や御託の類を聞かされた。

 思った通り、タナカシロウが放ったブロウガンのやじりからは、神経性の毒物が検出された。詳しい成分は分析をしてみないと分からないが、これが刺さっていたら、俺は間違いなく一分以内にあの世行きだったと、鑑識が話していた。

 当のタナカシロウは、肩と腰を撃ちぬかれていたが、全治四か月ほどの怪我で、命には別条ないという。

”とにかく、後で所轄に報告書を提出するのを忘れんなよ!”

 私服の一人が吐き捨てるような口調で俺にそう言い、一通りの捜査を終え、犯人を連れて引き揚げていった。

 撮影隊は何が起こったのか理解出来なかったらしく、何度か俺に質問を投げかけてきたが、

”後で水上社長から聞いてくれ”

俺はそれだけ言うと、手を振ってその場を去った。

 二日ほどして、水上弥生から電話があり、探偵料の残金は、幾分多目にして、指定口座に振り込んだ旨を知らせて来た。

 高杉静華は、何事もなく撮影を終え、写真集も出版、無事に米国留学へと旅立ったという。

 俺は電話の子機を置き、町の本屋で買ったその写真集を眺めながら、ネグラの外でデッキチェアに寝そべりながら、まだ日が高いというのに、バーボンのソーダ割を呑みながら午睡を楽しんでいた。

 彼女が飛び板の上で跳ね上がる瞬間を見事に捉えたショット。

 この裏で、ちょっとした死闘があったなんて、世の中の人間は誰も知らないだろう。

 どこかでセミの声が聞こえ、ウッドテーブルの端に置いたラジオからは、日本選手が何個目かの金メダルを獲得したと、女のアナウンサーが興奮気味に叫んでいる声が響いている。

                終わり 

✳️)この物語はフィクションです。登場人物その他全ては、作者の創造の産物であります。

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狙われた飛魚 冷門 風之助  @yamato2673nippon

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