PART4

 前もって電話を掛けていたので、彼女はすんなりと俺を家に通してくれた。

 東京都調布市といえば、昔はまだ牧歌的な雰囲気が残る・・・・そんなイメージだったが、何のことはない。

 最近はすっかり開け、大都会もいいところだ。

 それでも、その家はまだいささか緑が残る一角にあった。

 彼女は俺を居間に通すと、

”お茶だけで申し訳ありません”済まなそうにいい、湯呑を俺の前に置いた。

 彼女の名前は・・・・いや、本名は言えない。

 仮に”シバタサチ子”としておこう。

 例の“ヤマダサブロウ”君の義理の姉に当たる人だ。

『こんなところまで来ていただいて、本当に申し訳ないのですが、サブロウはもう

おりません』

 俺の前に座った彼女は、すまなそうに頭を下げた。

 年齢は40代半ばと言ったところだろう。

 どこにでもいる、中年の主婦と言った体の女性だ。

『もういないとはどういう意味ですか?確かサブロウさんは・・・・』

『ええ、同居していました」

 彼女はサブロウの兄にあたるイチロウ氏と結婚してから、義父母と共にこの家に住んでいたのだが、俺が調べたところでは、ずっと同居していた筈である。

『ご覧ください』

 彼女は立ち上がって、隣の部屋に通じる襖を開けた。

 八畳ほどの和室だった。

 床の間のすぐ隣に立派な仏壇があり、その上に義父母と並んで、痩せた、御世辞にも目つきの宜しくない男の顔があった。

『一年前です。自殺でした。刑務所から出てすぐ・・・・』

 それ以上彼女は何も語ろうとはしなかった。

 俺は茶の残りを飲み干し、

『なるほど、失礼しました』

 と立ち上がった。

 家を出る際、ふと箪笥の上に置いてある写真立てに目が行った。

『四人だったんですね?』

『え?』

『写真ですよ。四人写っている』

 写真立てのものは随分古かった。

 恐らく3~40年くらい前に撮られたものだろう。

 まだ若い父親と男の子が四人、並んで写っていた。

『え?ええ、シロウさんといって、サブロウさんとは双子なんです』

とは?』

 彼女は少し間を置いてから話し始めた。

『私はお会いしたことがないんです。何でも子供の頃、親戚の家に養子に行ったとかで・・・・』

 写真立てを手に取る。

 確かにそっくりだ。

 シロウの方は右の目の下に、小さな黒子があるくらいで、後はどこをどう見ても

 そっくりだった。

『なるほど、良く解りました。有難うございます。』

 俺はそれだけ言うと、間もなくヤマダ家を辞去した。

 双子・・・・既に死んでいるヤマダサブロウ・・・・偶然の一致かもしれないが、何かが俺の頭の中でつながりかかっていた。

 

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