第27話 再びの約束

「ふふっ。それなら簡単だな。シークに見えている星は、お前を支えている星だ。ディエンは王国の白魔術師たち、そしてアタシの希望が星となって表れているはずだ」

「黒と白にそれぞれってことは、両親……か?」

「そうなるだろうな。もっとも、今はもっと増えていると思うが?」


 ステラに言われた通り制服を見てみると、五芒星の周りには小さいながらも、沢山の星が見えている。両親の他に、恐らく学院の友人たちとステラの星が含まれているような、そんな感じに見えた。


 黒と白の五芒星があるオレは、両方の魔術が使える以外に隠者としての力が備わっている。ボーグたちのように、黒の感情を持つ者とは意味が違うということだろう。


「ステラの星もオレの胸に加わったってことか」

「――馬鹿を言うな! アタシの想いが、そこまで小さいとでも思っているのか?」


 これも勘違いしてしまいそうな言葉だが、彼女とオレは長年の相棒だ。お互いを想い合わなければ、戦いにおいても上手く働かないことが多くなる。その意味での言葉だろう。


「……そう言えば、トネール先生はグランディールからの生まれ変わりがボーグ・ドレヒスだけと言っていたが、ギィム・ルゴールは違うのか?」

「さっき連れられて行った男か?」

「ああ。彼から一時的に黒の気配を感じた」

「傀儡されていたのであれば、黒の感情となるのもあり得ない話ではない」


 そういうことか。はっきりとしたことが分かったわけでは無いが、少しは気が休まるというものだ。


 それにしても水面下で王国の白魔術師が動いていたとなれば、黒の感情を持つ者たちも姿を見せないまま終わるとは限らない。まして今オレの傍には王女がいる。彼女が傍にいる以上、企みを持って近づいて来るに違いない。


「そうか。それならいいんだ」

「ふん。……ところでシーク。お前はアタシのことを何だと思っている?」

「――ん?」

「相棒として長いこと一緒にいたが、今ではアタシに出来ることは精霊の力を使うだけだ。お前は最強の魔術師として、王国の魔術学院に来てくれた。この先、どうするつもりがあるのかと聞いている!」


 なるほど。確かに賢者の時は力の差はあっても彼女は魔術が使えたし、星の加護を受けて星の力を使うことが出来ていた。それが今は、王国の王女として生まれ、精霊の声を聞くことしか出来なくなった。片やオレは、隠者として過ごしていた時間が長かったとはいえ賢者だった頃よりも遥かに魔力がある。


 黒魔術と白魔術を使いこなせるというそれだけでも、彼女にとっては脅威と映っているに違いない。


「そうだな……それならまたオレと約束を交わすか?」

「約束?」


 地下牢にいた時は、彼女の方から約束を交わして来た。だが今は状況が違う。


 やりたくもない王国の王女として魔術師たちを取りまとめ、王女のことを知らない国民たちの為に密かに動かなければならない状況は、彼女にとってとても辛いものとなっているはず。

 

 それなら、自分が出来ることは陰となって彼女を支えるしか無いだろう。


「かつては一緒にいることが当たり前だった。だが今はそれが出来ない。だから、約束をしたい」

「アタシに星の力が無くてもか?」

「もちろんだ。あの時の約束は、それだけの意味では無かっただろう?」


 地下牢から脱出した時は、生きている内に再会出来ると信じて願っていた。しかしそれは叶わなかった。見上げた空に浮かぶ星を見てさえいれば、それだけで良かった。


「――ふん。お前らしくないが、いいだろう! そしてお前もアタシに誓え!」

「……ああ」


 言葉だけの約束では弱い。それもあって、今回は儀式のような真似事をすることにした。王女ステラをその場に立たせ、オレは彼女の前に跪く。そして彼女の手に誓いの口づけをつけた。これは騎士が王女に忠誠を示す行為そのものだが、彼女を守ることに変わりはないのでそれに倣ってそうしたまでだ。


「アタシの騎士のつもりだろうが、お前が傍にいることは当たり前のことなのだぞ? 魔術師として確かに最強の力を有してるかもしれないが、お前の精神は弱すぎる!」


 言われても反論出来ないのが辛い所だが、その通りだった。こればかりは強気な彼女に従うしかない。


「いつもすまないな、ステラ」

「年寄じみたことを言うな! お前もアタシも十六なのだぞ? まだこれからでは無いか! 分かったのなら、立ち上がってアタシを見ろ!」


 何故腹を立てているのか分からないが、立ち上がってステラの正面に向き合った。すると彼女は、オレに迫ったかと思うと額がくっつくくらいにまで近付いて来た。


「な、何の真似だ?」

「アタシの眼を見て誓え。もうどこにも行かないと。アタシの傍に居続けるとな!」


 まるで告白のように聞こえるが、彼女の協力が無くては黒の感情を持つ者と長期的な戦いを強いられてしまうだろう。そうならない為にも、協力することを誓わなければならない。


「魔術師シーク・マードレは、ステラ・フェアシュに協力を惜しまないことを誓う」


 視線を逸らさずにずっと見られているが、彼女の表情からは感情の変化が掴めない。


「――協力か。お前は記憶を取り戻しても、アタシの気持ちまでは分からないのだな。しかし、今はそれで勘弁してやるしかないな」

「ん? どういう意味――」


 怒ってはいないようだが、オレを見る彼女からは呆れたような感じの表情が見えた。


「さて、シーク。アタシは戻るぞ。お前の部屋が安全なのは十分すぎる程分かったが、アタシも暇じゃないからな。明日の戦いに備えるさ」

「帰りはどうするんだ?」


 ステラは空間転移を使うことが出来ない。それ故に、どうするつもりなのかと心配していたが、どこからともなく白ローブの魔術師たちが姿を見せた。オレの部屋に勝手に入って来るのはどうかと思ったが、王国の白魔術師の実力が相当に高いことを知れた。それだけでも良しとしよう。


「迎えが来た。シーク、またな」

「あぁ、明日な」


 王国の白魔術師がどれくらいいるのか分からないが、白魔術師は王国を守護している。そうなると、やはり黒の感情を持つ者たちには、オレが何とかするしかなさそうだ。

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