第25話 デート?

「――む。そ、そうだな」

「ところで、この男と友人か?」

「逃げて行った奴らと違って、敵じゃないことは確かだ。何か気になるのか?」

「……いや、アタシには見えないからな。この男から直接聞いてみるしか無いだろう」


 もしかしてステラは、五芒星の色のことを言おうとしていたのか。しかし色はおろか星についても、彼女は確かめることが出来ない。そうなると早く回復して欲しい所だ。


「ううーん……あ、あれっ!? そこにいるのは、シークくん? それから……ステラさん?」

「その通りだ! お前は?」


 もはやステラは猫かぶりを止めたらしい。その方が彼女らしくて分かりやすいものだが、倒れて起き上がりざまのギィムに対し、腕組みをしながらのけ反っているのはどうなんだ。


「え、えーと、シークくんの友人のギィム・ルゴールです。二人はどうしてここに?」


 どうやら自分が何をしたのかも覚えていないようだ。黒い気配はすっかり消え失せ、彼からは穏やかな気配しか感じられない。


 そうなるとやはり、誰かの影響を受けてここに来たとしか考えられないが、決めつけで聞いていいものかどうか迷う。


「シークとアタシは、デートだ! お前は?」

「な、何っ!? デ、デート――?」

「えっ、そうなの? そっかー二人はそういう関係なんだね!」

「……まだどういう関係か決まっていないが、ギィムはどうしてここに来たんだ?」


 恐らくデートと言ったステラは、その意味を知らずに言い放っている。今はそのことを気にするよりも、ギィムの方を気にするべきだ。ベルングに放った黒い霧のような力を、何故身に着けてしまったのか。


「それがさ、覚えていないんだ。確か僕は、ボーグくんたちに呼ばれてロビーで待っていたはずなんだけど、気付いたらここに」

「ボーグ? どうして彼らに? まさかと思うが、意地悪をされていたのか?」


 予感は的中していた。気の弱そうなギィムに接触していたのだ。オレが教室で存在を示し始めた辺りから、彼らはあまり目立った行動を見せなくなっていた。せいぜいステラに近付いて声をかけるくらいだったが、まさかギィムを誘ってこんなことをさせるとは。


「――シーク。ここで話し込むのは良くない。彼を連れて、別な所で話せ」

「え? あぁ、そうか! 分かった」


 ギィムに詳しく話を聞こうとすると、ステラから止めに入られた。恐らく噴水広場に留まっていると、彼を懐柔した何者かが、ここに現れることを危惧したのだろう。それに加えてもうすぐ夜が近い。暗くなると有利になる者がいるはずだ。


 そう考えて、急ぐことにした。


「シークくん、どうしたの?」

「悪い、空間転移をするぞ。オレにしっかり掴まってくれ!」

「わわっ!?」


 黒い気配を感じた先から嫌な視線を感じた。恐らくしくじったギィムに向けてだと思われるが、今は彼を保護する必要があった。


 今すぐここから離れる為にも、ギィムを掴み、ステラの手を握り急いで空間転移を使った。


 慌ただしく使用した空間転移だったが、着いた場所は自分の部屋の中だ。魔術学院では無かったが、邪魔する者が現れないとも限らない以上、ここが一番安全なはずだ。


「シーク。ここはお前の部屋か?」

「まぁな。面白くも無い部屋だが、招待した形になったな」


 結果的にステラも一緒に部屋の中に移動して来たが、話をするには丁度いい。


「僕も入るのは初めてだよ! だけど、何も置いてないんだね」

「寝るだけの部屋だからな」


 ギィムを入れるのも初めてだったが、何かあった場合はここにいてもらう方が安全かもしれない。


「――それで、シーク。この男に何があったか分かるか?」

「彼はオレとこの寮で暮らしている、ギィム・ルゴールだ。恐らく、黒の感情を持つ者に接触されながら、少しずつ心を弱らせられたのだろうな」


 まだボーグたちの名前を出すのは尚早だ。ステラには協力してもらうことになるし、まだ具体的な名前は控えておく必要がある。


「黒の感情か……。まさか、今になって復活を?」

「オレも信じたくは無いが、オレが気になっていたことと関係しているはずだ」


 ベルングが言っていた黒魔術側と白魔術側の話は、オレだけが見えている星の色に関係がある。もしそうなら、心の色として見て間違いは無い。


「えっと、僕はどうすれば……?」


 彼がいる前で大昔に起こった魔族との戦いを話しても、困らせるだけだ。何も覚えていないところにこの話は、ますます混乱させてしまう。だが思い当たることだけでも聞き出さなければならない。


「ギィム。君は最近教室にいないことが多かったんだが、どこに行っていたのか覚えているか?」

「あ、それは、ボーグくんたちと遊んでいたからだよ」


 やはり黒い五芒星の連中で確定か。


「遊ぶってのは?」

「彼らは王国出身では無い僕に、積極的に話しかけてくれてたんだ。それからは、休み時間とか放課後に外に行くようになって、街にも繰り出すようになったんだよ」

「……街の噴水広場とかも?」

「うん! あそこは王国の象徴だって教わったんだよ」


 王国についての歴史は、ステラの方が詳しいはず。それを何故奴らが知っているのか。だが問題は奴らが接触を図って来たのが、素直な心を持ったギィムだったことだ。


 そんな彼が信頼を寄せていた連中に利用されていたことを知れば、黒の感情が芽生えかねない。しかし同じ教室に通う彼を守り抜くことは困難だ。ボーグたちは危険だから近付くなと言うのも変だろうし、どう説明をするべきなのか。


「シーク・マードレ! ここを開けたまえ!!」


 考えてもいい答えが生み出せない。そう思っていると、部屋の鉄扉を激しく叩くけたたましい声が聞こえて来る。


「シーク。ディエン……いや、あの声はトネール・ディエンだ」


 オレよりも先にステラが気付いたようだ。ここは素直に開けるしか無さそうだ。そうして鉄扉を開けると、トネール先生の他に見たことの無い白いローブを着た者たちが、部屋に入って来た。


 そして――


「ギィム・ルゴール。君には保護命令が出ている! 学院の安全な所に部屋を移すことになった。我々と来たまえ!」

「――ええっ!? ど、どうして僕?」

「ボーグ・ドレヒス。あの生徒は違反行為をした。違反行為を繰り返す危険性があり、君を彼に接触させるわけにはいかないと判断した。一緒について来たまえ」


 これは随分と用意がいいが、既にトネール先生が水面下で動いていたということだろうか。ステラの表情は特に変わりは無いが、噴水前で精霊の気配を出した時から王国が察知していたようだ。


「ど、どうしよう? シークくん」

「ギィム。大丈夫だ、信用していいと思うぞ」


 はっきりと断言出来ないが、白いローブを着た者を疑うつもりは無い。


「シークくんが言うなら……また会えるよね?」

「まぁ、学院にいるわけだしな。ボーグたちのことが済んだら、またよろしくな!」

「う、うん!」


 不安な顔を見せていたギィムだったが、オレの言葉に安心したのか特に逆らうことなく、白ローブの者たちに連れられて行ってしまった。そしてオレの部屋に残っているのは、ステラとトネール先生だけだ。


「シーク・マードレ。座ってもいいか?」

「あ、どうぞ」


 どこかのタイミングで、王国の秘密と過去との繋がりのことを聞こうと思っていた。その機会が向こうからやって来るとは。

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