第24話 聖なる光

 ギィムの相手をしているベルングの方に目をやると、必死に何かを防ごうとしているベルングの姿があった。


「――あり得ないぞ、くそっ!!」


 だが聞こえて来た声の直後、ベルングは黒い霧のようなもので吹き飛ばされていた。吹き飛ばされた所が噴水だったおかげで、激しい水飛沫を上げて水浸しになったようだ。彼は頭を左右に振って、水を落としながらすぐに体を起こした。


「ベルング! 助けが必要か?」

「訳が分からねえ。ギィムは白魔術側じゃなかったのか?」


 寮で自己紹介をした時に見えたのは、間違いなく白く光る五芒星だった。しかし今は分からなくなっている。もしかしたらボーグたちと関係があるかもしれないが……。


「傷はあるか? あったら治癒を――」

「大丈夫だ、怪我は無い! 俺はここまでだ。悪いが後は頼む」


 制服を水浸しにしたこともあり、彼はそのまま空間転移で戻って行く。ギィムは吹き飛ばしたベルングのことを気にもかけず、今度はオレたちがいる所に近づいて来る。


「シーク。あの男から感じる気配に、気付いているか?」


 オレが言うよりも先に、ステラからもギィムが放っている黒い霧のことに気付いたようだ。


「ああ。しかし彼に初めて出会った時は、悪い気を感じなかった。五芒星の色も白かったんだが……」

「お前が見えているっていう星の色か? 白かったものが黒く変わったと考えられるんじゃないのか?」


 五芒星が黒く見えるのと、白く見える意味はまだ分かっていなかったが、ステラの言葉を聞いて確信に変わった。どうやら星が示す色の違いは、心の色で間違いなさそうだ。


 ベルングから聞かされた白魔術側と黒魔術側の違いは、どう考えても正しき感情と黒の感情のことに違いない。

 

 そしてもう一つ気にかかることがある。フェアシュ王国がかつての故郷、グランディールだということについてだ。存在していた国が跡形も無いことと、それを隠すように周りを湖に沈め、華やかな魔術都市を建てていることに何か違和感を感じる。

 

 昔何があったのかについてはステラのことを思って詳しく聞かなかった。だが湖上の王国から感じる違和感は、王国の周りを水で囲っている光景だ。これはどう考えても、黒い気配を浄化させているようにしか思えない。


 そしてもっと気になるのは、オレやステラのように生まれ変わった、もしくは子孫がいてもおかしくない状況についてだ。ボーグ・ドレヒスの名を聞いた時に、胸がざわついたのを思い出す。何かが引っかかった気がしていた。しかし果たして、ステラがこのことに気付いているかどうかだ。


「そうかもしれないな。ところでステラ……」

「何だ?」

「この王国が昔グランディールだったというのは、本当なんだな?」

「何だ、地下牢に行ってもまだ疑っているのか?」

「疑っていない。問題はオレたち以外にも、生まれ変わった者がいるかどうかだ」


 オレの言葉を聞いた彼女の顔が、一気に血の気が引いたことを見逃さなかった。


「――いつから気付いていた?」

「トネール先生だよ。君が宮殿にいた時からの関係なんだろう?」


 古くからの関係とはいえ、グランディールからの繋がりが今まで続いているのは、決して容易なことじゃない。王国となっても、ロンティーダ魔術学院の地下に宮殿の地下牢を残したままなのが、何よりの証拠だろう。トネール先生がどうこうではないが、それがどうにも気になった。


「ふふふっ。シークはアタシに負けず劣らずだな。お前には全てを明かす! だがその前に――」


 気付けば、ギィムがすぐそこまで近付いて来ていた。気配を感じてはいたが、何かをして来る感じは見えなかったのでまだ警戒はしていなかった。


 だが相手から先手を取られるつもりは無かったオレは、すぐに白魔術を放った。


「白の魔術、【セイクレッド・エンド】だ! ギィム、目を覚ませ!!」


 白魔術の呪文は、養父アンゼルムから教わったものが多いが、そのほとんどが浄化や神聖といった魔力消費が激しいものばかり。使うことは無いと思っていたのに、まさか友人に向けて放つことになるとは。


「ぐわあああああ……!! ううう……うぐぐぐぐ――」

「くっ――ま、まずい! 行くぞ、カース」

「に、逃げないと!!」


 聖なる光とまでは行かないが、それに近い魔術をギィムに命中させた。痛みを感じながら、ギィムは膝を落とし、ゆっくりと倒れ込んでいく。果たして彼がどうなるか、経過を見守るしかない。ギィムの後ろに控えていた二人は、傀儡をかけていたようで彼が倒れかけた時に急いで逃げて行った。逃がすわけには行かないが、ステラに止められてしまった。


「シーク、あの男たちは追うなよ? 今はこの男を何とかするべきだ」

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