第21話 王女様抱っこ

 ステラという王国の王女がクラスに加わった後は、つつがない授業の時間が過ぎた。


 そしてあっという間に放課後を迎えたのである。それまでの間、質問攻めをする女子やベルングがステラの元に全く来なかったのが気になったが、何となく恐れ多い雰囲気を感じているのかもしれない。

 

 しかしボーグ率いる黒い五芒星の彼らだけは、休み時間の度に何度もステラの元に近寄っては声をかけていたようだ。話の内容までは聞こえて来なかったが、彼女の反応を見るに大したことでは無かったのだろう。特に気にすることでもない、そう思っていると教室にはほとんど人が残っていなかった。残っているのは、ベルングと彼の親しい女子たちだけだ。


「さてと……」

「どこへ行くつもりだ、シーク」

「もちろん、寮に帰るつもりだが?」

「――ならば、お前の寮に行かせてもらうぞ!」


 何を言い出すかと思えば、さすがにそれはまずいことになりそうだ。しかも今日に限って毎日のようにしていた魔術稽古が休みな日だ。定期試験の前日ということで、今日は休めとトネール先生から言われているからだ。


 それにいくらステラが長年の相方であっても、寮の部屋に入れるのには抵抗感があり過ぎる。

 

 ――そう思っていたが、タイミングを見計らったようにベルングが声をかけて来た。ベルングの後ろには、数人の女子たちがいてオレたちの方を気にしている。


「おいおい、シーク。約束を忘れて帰るつもりじゃないよな?」

「……約束? ――あぁ! そうだったな」


 ベルングと街へ行く約束をしていたことを忘れて、すっかり帰る所だった。ステラへの返事がまだだが、丁度良く声をかけてくれたものだ。しかし、オレたちの話にステラが割って入って来た。


「そこの男! シークと約束をしたのか?」

「――お、男って。俺はベルング・コートって言いまして、シークと友人関係なんですよ。キミはステラさんだったかな? もし良かったら、あなたも一緒にどうかな?」

「よく分からないが、いいだろう。そこの男……シークは約束を守る男だ。なぁ、そうだろう?」


 痛い所をついて来る。長いこと彼女との約束を忘れていたのに、ベルングとの約束をすぐに思い出したことが気に入らないようで、彼女がついて行くことを拒めなくなった。


「も、もちろんだ。すぐにでも行くとするか!」

「よし。それじゃあ、空間転移で外門前な!」


 魔術都市の街に繰り出すということで、移動は当然のように空間転移を使うようだ。しかし、そうなると問題が生じる。


「ベルングという男! 空間転移とは何だ?」

「移動の魔術なんだけど、もしかして使えない?」


 そもそもステラは魔術の類が使えないが、どうやって向かうつもりなのか。そう思っていたが、彼女は何故かオレの方を見て微笑んでいる。


「――ふふっ。いや、シークと共に向かう。お前たちは先に行くがいい」

「個性的で面白い話し方をする子だね。とにかく、俺たちはそうさせてもらうよ。ステラさんは、シークと一緒に来てください。それじゃ――」


 一緒に行くとか、どうするつもりなんだ。まさか歩いて向かうつもりじゃないよな。


「あんなこと言って、どうするつもりなんだ? 君は魔術を使えないはず。歩いて行くにしても、学院の外までは結構歩くことになるが……」

「シーク。今すぐアタシを抱っこしろ!」

「な、何!? 抱っこだと!? ――ということは、つまり……」


 ベルングたちを先に移動させたのは、そういうことだった。魔術を使えない彼女が空間転移をするには、オレの助けが必要になる。教室に誰もいないとはいえ、まさかここでやることになるとは。


「どうした、まさかあの男の約束を破るんじゃないよな?」


 約束という言葉が、まさかここまで有効的に使われてしまうとは。こうなると彼女に逆らっても無駄だ。空間転移で移動したベルングたちを待たせるわけには行かないし、やるしかないのか。


「そんなわけないだろう? そういうことだから、オレに体を寄せてくれ」

「望むところだ!」


 何でそう強気になれるのか。それに外門に移動した時点で、絶対冷やかされるし一気に注目を集めてしまうが仕方ない。

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