第16話

 ヒューイの槍が、ゲリアの頬をかすめる。


 それを見たシルメが、叫んだ。


「ヒューイ!」


 シルメは大剣を抜き、ヒューイに向ける。


 ユーファも立ち上がろうとしたが、痛みのために彼女は動けなかった。代わりにシルメが口を開いて、ヒューイを止めようとする。


「ヒューイ、ゲリアは助けてくれた恩人だよ。槍を下げて!」


 だが、ヒューイはユーファの叫びを聞かない。


「この人は、厄介ごとを持ち込んでくる疫病神です」


 そう断言して、ヒューイはゲリアから狙いを外さない。


 ヒューイとゲリアの間に入ったのは、シルメだった。シルメは大剣を抜き、それをヒューイに向けていた。そのことについて、ゲリアはほっとする。


シルメに守られている、という気がしたからだ。そう思うと対面時には恐ろしかったシリアの高身長も、今は頼もしく感じらえる。


「よけてください。その人を殺します」


「ダメだよ、ヒューイ。君は、ユーファの怪我を見て感じた罪悪感を他人のせいにしている。それで、他人を傷つけてはだめだ」


 ヒューイは、舌打ちをする。


 だが、槍の向きは直さない。


「ヒューイ、本気でやるよ。いいの?」


「望むところです」


 ヒューイとシルメの槍と大剣が絡み合い、あたりには金属がぶつかり合う音が響きあう。その光景に、ゲリアは眼を奪われていた。二人とも剣と槍の達人だ。その達人同士の殺し合いは、まるで剣舞のような美しさがあった。


 ヒューイの槍は素早く、シルメの大剣は力強い。


二人の腕は、ゲリアの目には互角に思える。


 きん、と一際高い音が響いた。


 気が付いたとき、ヒューイの槍は彼の手を離れていた。


 シルメの大剣はヒューイの槍をはじき、槍は空中に舞った。そして、地面に突き刺さる。ヒューイはそれを見て、舌打ちをした。そして、武器も持たないままシルメに向かっていく。シルメは、ヒューイの鳩尾に拳を入れた。


「くはっ……」


 ヒューイは苦悶の表情を浮かべて、体を折り曲げる。だが、ヒューイはまだ倒れずに、シルメに立ち向かう。


「ゲリア、今のうちに逃げろ!」


 ユーファは、ゲリアの背中を押した。


 だが、ゲリアは戸惑う。


「でも……こんなことになっているのに」


 ユーファは、首を振る。


「ここは、俺とシルメで何とかする」


 ゲリアは、立ち上がりユーファに背を向ける。


 そして、そのまま森を走った。

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